『つながり続ける こども食堂』

湯浅 誠/著

中央公論社/刊

定価1,760円(税込)

交流と体験、人とのつながりの場として

 「人をタテにもヨコにも割らない」ゆるやかなこども食堂の魅力が各地の現場取材に基づいて語られている。基本的な性格は「子どもを中心とした多世代交流の地域拠点」。毎日食事を提供しているわけではないが、交流と体験、「つながり」が提供されている。「無縁社会」に抗って、「疎」に抗って、「密」なつながりの場が作られている。コロナ禍であっても、知恵と工夫でつながり続けている。

 著者は全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長。地域でつながり続ける子ども食堂を、全国につなぐ活動をされている。その立場から見えてきたエピソードが綴られ参考になる事例が豊富である。各地のミクロコスモス中で展開されているドラマには、マクロコスモスの中の社会問題の解決に向けてのヒントが散りばめられている。

 例えば、「みんなが運営者で、みんなが参加者」「お膳立てしない」「役職は上下をつくる。役割はそれぞれのオリジナルな持ち場、持ち分をつくる」「多様な人たちといかに協働するか」「自分のあたりまえと人のあたりまえの距離を測定し、そこに橋を架ける体験」など。「こども食堂は世の中の底流を変えていく試み」だと実感させる事例に満ちている。

 著者は、「こども食堂は、ミヒャエル・エンデの『モモ』の時間どろぼう団に抗って『生きた時間』を取り戻そうとする場でもある」と言う。人々は既に答えを持っている。いかに引き出すかだけである。本来の「教育」の真髄もここにある。こども食堂と本書が問いかけるものは、深くて広くて大きい。

(評・埼玉県立秩父農工科学高等学校 講師 江田 伸男)

(月刊MORGEN archives2021)

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