『人類と感染症、共存の世紀 哲学者が語るペスト、狂犬病から鳥インフル、コロナまで』

デイビッド・ウォルトナー=テーブズ/著 片岡 夏実/訳

築地書館/刊

本体 2,700円(税別)

議論は、科学哲学に踏み込んで

 SARS(サーズ)、あるいはMERS(マーズ)の流行が報道されていた当時、自分には関わりのない、遠い国の出来事だと感じていた。2019年末の中国、武漢で検出された正体不明の感染症報道も当初、私の中ではSARSやMERSと同じ扱いだったように思う。その後、感染が世界中に広がる中で出版された本書は、高病原性鳥インフルエンザが流行した後の2007年に書かれた初版(The Chickens Fight Back)に続く、第2版に当たる。初版を読めていないが、著者の立ち位置は大きく変わっていないだろう。本書の多くの部分は著者自らの獣医師としての経験と関係機関からの報告を元に、世界で確認されてきた感染症の発生事実と感染経路の紹介が占めている。紹介は感染症毎のため、年代が前後する点は仕方がない。季節性インフルエンザを含めなくても、感染症のアウトブレイクは毎年世界のどこかで起こっていると言って良さそうだ。アフリカとアジアに多い印象は受けるが、ウィルスから寄生虫まで、人や人以外の動物に感染症を起こす病原体は、自然宿主とともに穏やかに私たちの周りにいるらしい。そして今後、遍在するウィルス等の中からパンデミックにつながる(COVID-19のような)新たな変異種が出てくる可能性は消えない。

 私たち人類がこれからも地球で生きていくために、感染拡大に備えてどのような予防措置を取るのか。持続可能な社会の実現をどのように目指すのか。議論は科学哲学に踏み込んでいき、私たちに「思考の枠組み」の変革を提案する。果たして私は「思考の枠組み」を変えられるのだろうか。

(評・福井県立美方高等学校教諭 木村 文彦)

(月刊MORGEN archive2021)

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