『下山の哲学 登るために下る』

竹内 洋岳/著

太郎次郎社エディタス/刊

本体1,800円(税別)

「チームとは何か?」を教えてくれる一冊

 学校行事で北アルプスの蝶ヶ岳に登る時は、三ヶ月前から極秘トレーニングを積む。生徒の前でギブアップ、という醜態を晒したくないからだ。おかげで好きでもないのに登山に向く身体になった。三年目には、自分が率いるゆっくりグループの生徒が、体育科の先生率いる先頭グループを追い越しそうになり、時間調整したほどだ。

 相変わらず登山は好きではないが、ネットが通じない山小屋での不便な生活が好きになり、山小屋に通うようになった。ベースキャンプで登頂者を見送って帰ってくるタイプ。そんな「登山者もどき」の自分が手に取ったのが、本書である。

 八〇〇〇メートル越えの山を一四座登った、二十代青年のノンフィクション。「『このまま寝たら死ぬぞ!』は実際にはない」「頂上では達成感より恐怖感が先に立つ」 「頂上は静寂ではなく轟音の世界」数々の実体験から出てくる言葉には説得力がある。

「頂上は折り返し点ではない。登りと下りは一体なのである」というのも新鮮だ。精神論でもない。登山の手引きでもない。また、山登りを人生に置き直して日々の生き方を見直すという、ありがちな啓蒙書でもない。共同してゴールを目指す時、チームとして目的を達成していく時に起きる議論の数々と、個人が個人として考えながらチームを維持していくエピソードが、ふんだんに描かれている。

 文化祭やプロジェクトの実行委員を担う人、クラブ活動や共同研究での人間関係について考えたい人はもちろん、共同作業を常とする大人にも読んでほしい。 「チームとはなにか?」を教えてくれる一冊だ。

(評・聖学院中学校高等学校教諭 大川 功)

(月刊MORGEN archive2021)

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