寄生虫のはなし—この素晴らしき、虫だらけの世界—

『寄生虫のはなし—この素晴らしき、虫だらけの世界—』

永宗喜三郎、脇司、常盤俊大、島野智之/編

朝倉書店/刊

本体3,000円(税別)

生物同士の関り方を考え直す機会を提供

 自己責任論が厳しく主張される昨今では寄生という言葉自体に悪い印象を持つ人が多いかもしれない。それに加え、実際に種々の病気の原因になるとあって寄生虫に対するイメージは一般的によろしくないものであろう。
 本書では、確かに具体的な寄生虫の生態について述べられているし、そこを見れば迷惑な奴だという思いを再確認する種も存在するだろう。ただ、その前に書かれた寄生虫の総論を読めば寄生虫とくくられている生き物たちも生態系をつくる重要なメンバーであることが見えるようになっている。
 相手に害を与えつつ自分だけが楽をして生きるとは何事だという点で寄生虫を嫌っている人がいるかもしれないが、その認識を改めるという点で本書の総論部分は非常に有意義である。生物の体内では、免疫により自分以外の存在を排除する働きがあることはご存じであろうが、よく考えればその免疫は寄生虫に対しても容赦なく働くことになる。その厳しい中で生きるのだから楽をしているとは言えないのだということである。また、病気になるのも本来寄生すべき生物ではないところに入ってしまったがために起こることであり、寄生虫自身にとっても不幸な状況であるともされている。
 もちろん、各論部分ではそれぞれの寄生虫を研究されておられる方が熱い思いをもって生態を描かれている。それぞれの寄生虫の生き様や人類との関わりを思いつつ、生物同士の関わり方を考え直す機会を提供してくれる一冊であるといえよう。

(評・立命館中学校・高等学校教諭 和田 篤史)

(月刊MORGEN archives2020)

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