フクロウ

野鳥と私たちの暮らし第3回 森の賢者 フクロウ

解明されたフクロウの繁殖生態

 フクロウは、本来は樹洞で繁殖する鳥です。そのフクロウが、調査を開始して3年目に崖にできた穴で繁殖しているのを見つけました。外から巣の中の様子が丸見えです(写真2)。近くに小型カメラを設置し、そこから50mほど離れたテントの中に置いたビデオデッキで、巣の中の様子を録画しました。夜には、弱いライトの光で馴らし、卵の時期から雛が巣立つまでの約1ヶ月間、毎日24時間連続して巣の中の様子を撮影しました。

写真② 縫いぐるみのようにかわいい雛たち。まだ、ネズミを丸のみできない。

 撮影されたビデオを解析し分かったことは、子育ての仕事は雌雄ではっきり分かれていることでした。巣に留まり、産卵し、卵を温め雛の世話をするのは雌で、巣にいる雌や雛に餌を運んでくるのは雄の仕事でした。雄が運んで来た餌を雌は自分で食べるだけでなく、雛が孵化するころには巣に蓄え、雛が孵化すると少しずつちぎって与えていました。

 孵化後2週間がたち、ヒナに黒い羽毛が見られる頃になると、雌親も餌を捕りに外へ出かけます。巣に運び込まれた餌の約8割は、ネズミ、モグラ、リスなどの哺乳類で、残りは鳥類、カエルなどの両生類でした。意外なことに、巣に餌が運び込まれたうちの25%は、朝の6時から夕方6時までの日中でした。夜だけでなく、日中も餌を捕って巣に運んできたのです。夜行性であっても、繁殖時期には日中も狩りをしていることがわかりました。

不足する繁殖のための樹洞

 調査を進める中で、繁殖に適した自然の樹洞の不足が深刻なことも解ってきました。他の地域では、スギの木の根元の地上に営巣した例やオオタカ、ノスリといった猛禽の古巣で繁殖する例が見つかっています。
崖の穴に営巣した巣では、雛が2回、巣から落ちる事件が起きました。その都度巣に戻してやり、なんとか雛は無事巣立ちました。また、ハチクマの巣にカメラを設置していたら、その巣にフクロウが営巣し、雛が2羽とも巣から落ちてしまったことがありました。本来樹洞で育てられるフクロウの雛には、巣から落ちないようにする習性が備わっていなかったのです。

里山環境で人と共存してきた鳥

 フクロウは、人里に棲み、長い間人と共存してきた鳥です。神社の境内にある大木の洞にも営巣し、農耕地などの開けた環境でノネズミなどを捕らえる益鳥でした。暗闇でも見える人にない能力を持ちます。木に直立してとまり、人と同じような大きな頭と丸い平たい顔に立体視可能な丸い目を持ち、いかにも賢そうに見えます。これらの特徴は、いずれも闇の中で聴覚と視覚を頼りに獲物を捕らえるために進化したものです。

 身近に見られ賢そうな顔をしたフクロウの仲間の鳥ほど、世界中の人々に愛されてきた鳥はいません。古代ギリシャの知恵の神アテネの象徴として、神話や伝説、物語といった多くの文学作品や絵画の題材となり、逆に災いをもたらす不吉な鳥ともなってきました。

薄れる身近な自然への関心

 フクロウの研究から見えてきたことは、かつての人との共存関係が、最近ではすっかり壊れてしまっていることでした。巣の洞のある森の木は知らずに切り倒され、神社の洞の巣穴はコンクリートで埋められました。それらの結果、フクロウは姿を消し、神社で子供たちの遊ぶ姿も見られなくなり、そこで行なわれていた春祭り、夏祭り、秋祭りも、今では途絶えがちとなりました。

 これらの変化の根底には、かつての自然と共存した生き方から最近の人間中心の生き方への生活様式の変化があるように思います。我々は身近な自然を失っただけでなく、最近は身近な自然への関心も薄れてきてしまったように思います。物質的な豊かさと引き換えに、我々は多くの大切なものを失ってしまったように思えてなりません。

なかむら ひろし 1947年長野生まれ。京都大学大学院博士課程修了。理学博士。信州大学教育学部助手、助教授を経て1992年より教授。専門は鳥類生態学。主な研究はカッコウの生態と進化に関する研究、ライチョウの生態に関する研究など。日本鳥学会元会長。2012年に信州大学を退職。名誉教授。現在は一般財団法人「中村浩志国際鳥類研究所」代表理事。著書に『ライチョウを絶滅から守る!』など。

(モルゲン202111)

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