『新型コロナ感染 ダイヤモンド・プリンセス号に隔離された30日間の記録』

矢口 桃子/著

合同出版/刊

本体1,500円(税別)

コロナ禍で漂流する日本

 二〇二〇年一月二〇日から東南アジアを一六日間かけて航海した大型客船ダイヤモンド・プリンセス号において一部の乗客から新型コロナウィルスの感染が広がった。本書はそこにたまたま乗船し内部から日誌の形で記した貴重な記録である。本書を読むまでダイヤモンド・プリンセス号は「豪華客船」と誤解していたが、実態は「分譲アパート」を「豪邸」と宣伝するのと似ていると著者はいう。
 著者の矢口さんは、何よりも政府・厚生労働省からの情報が少なく方針や責任者の顔が見えなかったこと、感染の恐怖、隔離から来るストレスや先行きの不安から極限状態にまで追い込まれた。千田忠さんを中心とする船内隔離者緊急ネットワークが要請文を出すに至ってようやく対応が動き出したと記す。
 PCR検査を夫婦で受けて「陰性」となり、晴れて下船した後も、経過観察期間の中で精神的ストレスが悪化したという。精神科の病院二つに「ダイヤモンド・プリンセス号に乗っていた」と正直に話すと、いずれも受診を断られ、その差別を受けた体験からハンセン病患者への隔離・差別にまで思いを馳せる。
 著者は、この船の出来事が全く検証されず、場当たり的な対策で、医療費や社会保障費を抑制する日本はこの船のように漂流していると指摘する。
 矢口さんが救われたのは「苦しかったね」という友人や「大変だったね」というカウンセラーの共感する言葉であった。
 本書の最後に、「コロナ禍が収束した時にどのような社会が多くのひとびとにやさしい社会となれるのか、高齢者としても考えていきたい」と締めくくっていることに深い感動を覚えた。

(評・明治学院 学院長 小暮 修也)

(月間MORGEN archives2020)

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