• Memorial Archives
  • 過去に読書と教育の新聞「モルゲン」に掲載された記事からランダムでpickupし紹介。

瀬戸内 寂聴さん(小説家・尼僧)

読む時期や訳者が読み手に与える影響は

 『源氏物語』そのものはひとつですから、こっちが知らずにいてわからなかったものが、年齢や角度によって次第に深く分かってくるということじゃないかしら。

 たとえば私自身、出家してから読み通して改めて感じ方が変わったことがあって。というのも『源氏物語』に登場する女性の7割は出家しているんですよ。それまでは「そんなものかな」と思って何気なく読んでいたものが、いざ自分が出家して髪を落としたでしょう。そうするとやはりそれは実体験としてある種ショックなわけですよ。

 それを踏まえてあらためて『源氏物語』に向かうと、こんなにもみんな出家していったのはなぜだったんだろうとか、どういう心境だったんだろうというのを考え始めたんです。

『源氏物語』と仏門は深い関りがあると

 そう思います。当時の仏教――『源氏物語』の中に出てくる仏教は『天台宗』です。私も天台宗ですから、中尊寺で出家したときの式次第(進行プログラム)が『源氏物語』のラスト『宇治十帖』のヒロイン、浮舟が出家するときのものと同じなんですよ。それで紫式部はそれまでもたくさん作中で出家について書いてはいるんだけども、浮舟のときにはじめて詳しく書いてある。これはもう紫式部自身が出家したな、と感じ取ったんですね。

続きを読む
2 / 4

関連記事一覧