野鳥と私たちの生活 第5回 カッコウの新たな宿主 オナガ

不利な線模様をなぜカッコウ卵は持っているのか?

 オナガの巣に托卵されたカッコウ卵は、オナガの卵には似ていなく、大きさや卵の模様にかなりの変異がありました。托卵が始まった当初、それらの多くの卵がオナガに受け入れられていたのですが、オナガが卵識別能力を身に着けてからは、オナガ卵にない線模様を多く持つカッコウ卵ほど、オナガに排斥される傾向があることが分かりました。オナガは、自分の卵に似ている卵は受け入れ、似ていない卵は排斥するようになったからです。

 ここで、大きな謎に直面しました。なぜ、カッコウ卵の多くは不利な線模様を持っているのだろうか?その答えのヒントとなる論文がありました。石沢慈鳥が1930に発表した論文です。それによると、全国のカッコウの宿主と卵模様の検討から、信州及び富士山麓では、ホオジロへの托卵が多く見られ、ホオジロ卵に似た線模様を持つカッコウ卵は、これらの地域特産であると述べています。実際、その頃に採集されたホオジロ卵によく似た線模様の多いカッコウ卵が、今も各地の博物館に残されています。 

 ところが、それから60年が経過した当時の長野県では、ホオジロへの托卵はごく稀で、ホオジロ卵にそっくりなカッコウ卵はほとんど見られなくなっていました。また、カッコウに托卵されている様々な宿主の卵識別能力を調査した結果、ホオジロは極めて高い卵識別能力を持っていることが分かりました。

 これらの事実を総合すると、60年前に長野県ではホオジロにカッコウが盛んに托卵しており、ホオジロ卵に似た線模様の多いカッコウ卵が多く見られたが、その後ホオジロが高い卵識別能力を獲得した結果、ホオジロに托卵できなくなったのでしょう。おそらく、現在のカッコウ卵に見られる線模様は、かつてホオジロに托卵していた頃の名残との結論に至りました。

 カッコウの新たな宿主となったオナガが卵識別能力を獲得し、自分の卵にない線模様の多いカッコウ卵を排斥する自然選択が続いたら、現在似ていないカッコウ卵が比較的短期間に線模様を失い、オナガ卵に似てくることが予想されます。このことは、カッコウ卵の模様は、自然選択を通して進化する事実を、我々は目で確認できるまたとないチャンスに恵まれたことを意味しており、世界的に注目されました。

短期間にカッコウとの攻防戦に勝利したオナガ

 しかし、残念なことに、オナガへのカッコウの托卵が始まって30年ほどで、オナガへのカッコウの托卵は見られなくなりました。托卵をめぐるカッコウとの攻防戦でオナガが勝利したのです。短期間にカッコウがオナガに托卵できなくなったため、カッコウ卵が線模様を失いオナガ卵に似るという進化の事実を確認することはできませんでした。

 一時は、カッコウの托卵でオナガがいなくなった地域もあったのですが、いったん減少したオナガが増加に転じ、現在では多くの地域でカッコウに托卵される前の数に回復しています。オナガの数が回復した結果、オナガによるリンゴやブドウの被害が再び深刻になってきました。カッコウとオナガの攻防戦の顛末は、私たちの暮らしにも関係していたのです。

なかむら ひろし 1947年長野生まれ。京都大学大学院博士課程修了。理学博士。信州大学教育学部助手、助教授を経て1992年より教授。専門は鳥類生態学。主な研究はカッコウの生態と進化に関する研究、ライチョウの生態に関する研究など。日本鳥学会元会長。2012年に信州大学を退職。名誉教授。現在は一般財団法人「中村浩志国際鳥類研究所」代表理事。著書に『ライチョウを絶滅から守る!』など。

(月刊MORGEN archives2021)

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