『教育格差 階層・地域・学歴』

松岡 亮二/著

筑摩書房/刊

本体1,000円(税別)

現実の的確なリアルタイムの解説

 昨今の「大学入試改革」をはじめとした教育改革の動向を注視している教員たちにとって、読まないでは済まされない本である。「自分たちの視界の範囲だけで全体の状況を把握せずに理念先行で政策を作り、妥当な手法でデータを集めて効果を検証することもない」という一節は、私たちの目の前で起きている現実の、的確なリアルタイムの解説となっている。

 著者はこれまでの日本における教育論が「大きなメリーゴーラウンドにでも乗っているのかと錯覚を覚えるほど、いつの時代も表現が変わるだけで、実質的に同じ中身の意見が表明されてきた」と言う。それは、教員なら誰もが実際に抱いてきた感覚ではなかろうか。その感覚を、感覚で終わらせず「改善のための冷静な現状把握」から始めようと筆者は提言する。

 新書でありながら、「S E S」(社会経済的地位)をキーワードに、国内外の膨大なデータ、研究論文の成果をこれでもかというほど地道に積み重ねているのは、その「現状把握」がなければ、実質的な改善にはつながらないという著者の冷静な判断があるからだ。  

 私たち教員は、次々に世に登場する「新しい」教育論議や教育手法と対面しながら、まさに「大きなメリーゴーラウンド」に乗って学校での日々を送ってきたとも言える。現在の著者と15歳の著者の問答に登場する「昨日の劣化コピーのような教育実践とか政策が今日も疑いなく行われているのっておかしくない?」との言葉は、私たち教育に関わる者すべてに突きつけられている問いでもある。

(評・広尾学園中学校・高等学校副校長 金子 暁)

(月刊MORGEN archives2020)

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