• 十代の地図帳
  • 青春の記憶に生きるヒントを訊くインタビュー記事

柄本佑さん(俳優)

どんな学びを

 学校は2年制で、1年次には、写真と映像の二つのカメラを同時に学んでいく。で、2年に上がるとき、写真と映像、どちらかのコースを選ぶんだけど、入学当初は「当然映像だろう」と考えていた。なにしろ映画監督になりたくて入っているわけです。でも、よくよく考えたら、その頃にはもう仕事でどっぷり撮影現場に出入りしているんですよ。映像を一年学ぶうち、すっかり「なんだ、仕事と同じことをしてるな」と思うようになって。写真を撮る方が断然面白くなっていったんです。結局、2年に上がるときにも写真を選んで。そのときの学びは楽しかったですね。知らないことを知る、というのはやっぱり楽しい。

映画監督の夢は今も

 それはもちろん今でもなりたいですね。どんなものを撮りたいかと聞かれれば、それは中々言葉にはしづらいけれど……。ただそれについては、簡単に言葉に出来るものなら撮る意味もないのかな、とも思います。でもずっと胸に抱き続けているものはありますね。

俳優業について少し

 この仕事は基本的に「開店休業状態」なんてザラです。だから肝心なのはそういうときにどうするか。自分を「お店」だとして、どう埃をはたいておくか。やっぱり、埃の溜まった商品なんて買いたい人いないじゃないですか。そこをいかにキチンと整備して仕込んでおくか、それが一番大事だなといつも思います。

 自分の場合、映画好きが高じてこの世界に入っている。そういう意味では、映画を見続けるとかそういったことも仕込みの一つとしてあるのかな、と考えていて……。だから、休みのときは大抵映画館ですね。

実弟・時生さんとの芝居は

 あれは「ホーム」というか――。自分たちでお金を出し合って、ノルマを決め、演劇をやる。仕事がないときって本当になくて、平気でひと月半とか空くんですよ。そういうときに帰れるホームがあった方がいいと始めた。時生と二人、話し合い「芝居もやってみようか」と決めて。

 そうしたら今度は逆に、ヒマが出来るたび「よっしゃ時間が空いたから芝居やろう」となるようになって。だから色んな意味で、自分の帰る場所を作っておくのは大事かなと思います。時生とは単に「仲の良い兄弟」というよりは、どこか「同士」のようなところがあって。近すぎず遠すぎず、距離感が丁度いい。だから、この「ホーム」は居心地は悪くない。大事にしていきたいですね。

演劇に対する憧れは

 両親の影響はあると思います。でも、なにより大きかったのは、その劇団員のお姉ちゃんやお兄ちゃんたちを見ていると、何か漠然とだったけど凄く楽しそうに見えたこと。だから、演劇を作ることに対する憧れのようなものはずっとありますね。

『アルキメデスの大戦』について聞かせてください

 主人公を補佐する海軍将校・田中を演じるとあって、海兵の1日体験をさせてもらったんです。「君の演じるのは〝こういうこと″を何年もしてきた人なんだよ」というわけです。そんな海軍を下敷きにしたバキバキに厳格な人柄が、主人公・櫂に影響され、少しずつ人間味を帯び始める……。そんな役を表現するには、とにかく、まず、海軍をしっかり体現できないといけない。そういう意味では、その1日体験が、しっかり役どころを掴む上で大きかったですね。

おススメの場面は  

 最初のVFXのシーンもいいですし、田中と櫂少佐のやり取りも見所なんですが、一個人として「スゲェな」と思ったのは、やっぱり、最後の大会議室の格闘シーンですね。沢山の言葉が飛び交う中、櫂少佐の手が淀みなく動き、黒板を数式で埋めていく――。非常に見応えある場面です。で凄いのは、あれを菅田さんは理解して書いている。だから、たまに間違えると、「数字が違ってる」って。あそこ計算間違ったんだよなあ……、って首を捻る。そんなところも楽しんで見ていただければと思います。

えもと たすく 1986年、東京都生まれ。2001年、映画『美しい夏キリシマ』(2003年公開)の主人公少年役のオーディションで合格。同作で第77回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞、第13回日本映画批評家大賞新人賞を受賞。その後の映画主演作に『17歳の風景~少年は何を見たのか』(2005年)、『素敵なダイナマイトスキャンダル』『きみの鳥はうたえる』『ポルトの恋人たち 時の記憶』(以上、2018年)など。2019年、毎日映画コンクール、キネマ旬報ベスト・テン、日本映画批評家大賞でいずれも主演男優賞を受賞。最新出演作『アルキメデスの大戦』が7月下旬より公開。

(月刊MORGEN archives2019)

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