『写真と証言で伝える 世界のヒバクシャ①マーシャル諸島住民と日本マグロ漁船乗組員』

豊崎 博光/写真・文

すいれん舎/刊

本体15,000円(税別)

核の非情さと大国の横暴が明らかに

 写真とともに一人一人のヒバクシャへのインタビューを重ねた壮大な仕事である。冒頭に「ヒバクシャ」の定義がきちんと押さえられ、作者が責任をもって一語一語を綴ったことが伝わってくる。それも、決して情に流されるような文言でなく、写真撮影、聞き取り、公文書などの調査に基づいた事実の積み重ねで述べている。ウラン採掘から核の廃棄に至るまでのすべての現場で「ヒバクシャ」が生み出され、その存在があいまいにされてきた歴史を残そうとしている。

 この第1集は、アメリカによるマーシャル諸島での水爆実験の被害者たちの特集である。豊崎さんは1978年にマーシャル諸島のビキニ環礁、エニウェトク環礁、ロンゲラップ環礁の取材からスタートした。それが30歳になったころからなので、すでに40年も核被害を追い続けている。

 写真は雄弁である。人々の表情からは、住み続けてきた島から追い出され、放射能に痛めつけられた人々の苦悩がにじみ出ている。そこに一人一人の状況が迫って来る。核の非情さと大国の横暴が余すところなく明らかにされている。

 マーシャル諸島でアメリカが第1回の核実験を行ったのは1946年だった。その後も度々実験が行われてきたが、1954年3月には操業中の日本のマグロ漁船(わかっているだけで856隻)が「死の灰」を浴びた。第五福竜丸や他の乗組員へのインタビューも貴重である。

 これからの人類が「核の負の遺産」と向き合うためにこの本は大きな役割を果たせると思う。日本中の図書館、中学、高校の図書室に置いて欲しい。②の刊行が待たれる。

(評・写真家 菊池 和子)

(月刊MORGEN archives2020)

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