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  • 過去に読書と教育の新聞「モルゲン」に掲載された記事からランダムでpickupし紹介。

野鳥と私たちの暮らし 第9回 『人の生活に密着し、したたかに生きる鷹 トビ』

自然界の掃除屋

 トビは猛禽類の鷹ですが、他の鷹とはいくつかの点で異なっています。多くの鷹は生きた獲物を捕らえて食べるのですが、トビは動物の死体を好んで食べます。道路で車の事故にあったタヌキやネコを目ざとく見つけ、最初に集まってくるのはハシブトガラスなどのカラスですが、トビも集まって来て、死体を持ち去ります。

 大学を退職した現在では、ライチョウの調査と保護のために高山で過ごすことが多いのですが、人の生活圏だけでなく高山にもトビが集まることを最近になって知りました。4月末から5月の初めは、冬を温かい南国で過ごし日本に戻ってくる夏鳥、逆に冬を日本で過ごし北に帰る冬鳥の渡りの最盛期です。

 これらの小鳥の多くは、夜に渡りをするので、アルプスを超える時に吹雪に会い、死亡することが時々起こります。新雪の上には、キビタキ、オオルリ、マヒワなどの死体が多数見つかります。それらの死体を目当てに、この時期に限り多くのトビが下界から高山に上がってきていたのです。

 トビは、カラスと共に死体を食べる自然界の掃除屋という重要な役割をしている鳥ですが、死肉ばかりを食べているわけではありません。20年ほど前に里山に棲む猛禽について調査をしたことがありますが、その調査の一環でトビについても調査しました。北アルプスの麓の高瀬川と梓川の合流する穂高地区では、平地にトビが多数繁殖しています。

 そのうちの1巣にセンサーカメラを設置し、親が巣にいる雛にどんな餌を持ってくるかを調査したことがあります。その結果は、驚いたことに餌の8割はニジマスでした。この一帯は、北アルプスからの伏流水が湧き出すため、多くの養魚場があります。トビはその養魚場から生きたニジマスを捕え、雛に与えていたのです。この鳥は、捕えことができたら生きた餌も食べていること、この地域で多くが繁殖している理由も分かりました。

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