『樹木とその葉』

若山 牧水/著

田畑書店/刊

本体1,600円(税別)

誰もが高校国語教科書で目にする短歌が

 国語便覧の目次から「若山牧水」のページを開くと、1ページの四分の一を割いて紹介されていた。与謝野晶子や石川啄木に比べれば扱いは小さいが、やはり日本を代表する歌人の一人と言って差し支えないだろう。代表作とされる次の短歌は誰もが高校国語の教科書で目にしているはずだ。

幾山河越えさり行かば寂しさの  終てなむ国ぞ今日も旅ゆく
 白鳥は哀しからずや空の青    海のあをにも染まずただよふ

 この「白鳥は~」と寺山修司の「海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手を広げていたり」に心を射貫かれた高校生は私だけではないだろう。歌の内容に加え、酒と旅を愛し、颯爽としたイメージのある二人には、思春期の男子が憧れを抱くのに充分な条件が備わっている。

 一方、寺山に比べると随筆家としての牧水はさほど知られていないように思う。かく言う私もこれまで読んだことがなかった。今回、新字・新仮名に改められて読みやすくなった本書を手に取り、彼へのイメージが大きく変わった。自然に対する温かいまなざし、淡々としていながら爽やかな筆致、時折顔を覗かせるユーモア。妻や子どもとの他愛ない会話を楽しみ、押しかけ弟子に困惑し、酒と貧乏と自然を楽しむ姿は、知らぬ間に彼の享年を越えていた今の私にとってむしろ親しみを感じる。

 私と同じく若き日の牧水で止まっていた皆さん、ぜひその後の牧水の魅力を文章で味わっていただきたい。

(評・共立女子中学高等学校国語科 金井 圭太郎)

(月刊MORGEN archives2020)

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