『世界の書店を旅する』

ホルヘ・カリオン/著 野中 邦子/訳

白水社/刊

定価3,200円(税別)

書店を巡る旅には魔力がある

「どんな書店にも世界が凝縮されている。」と、著者のスペインの作家ホルヘ・カリオンは言う。そして彼が訪れた古今東西の書店を巡る旅に、この本を読む私たちも、共に出発できるのだ。

 その旅で私たちは、世界各地を移動するだけでなく、古代から現代まで、時空を超えて自由自在に動き、さまざまな書店を訪れることができる。古代ローマやギリシア時代の書店、ベルリンや長沙の「政治的であるべく運命づけられた書店」、マラケシュやイスタンブールの「東方世界の書店」、現代アメリカのチェーン書店、パタゴニアやヨハネスブルクにある「世界の果ての書店」、歴史的建造物を改造した博物館的価値のある書店…などなど、世界中の300もの書店が次から次へと現れる。書店主の思いや、店のある街の様子に触れることができる。

 さらに、その書店に関わった、教えきれないほど多くの、作家、詩人、文学者、革命家、独裁者、哲学者、音楽家、画家、映画監督、俳優…、あらゆる分野の人々のエピソードが、畳みかけるように語られる。なんと豊かな本と人の関り!

 私が特に興味を惹かれたのは、サンフランシスコの〈グリーン・アップル・ブックス〉だ。店内に迷路のようないくつもの通路、展示やPOPなど多くの仕掛けがあり、壁には作家の書簡の額や巨大な地図、アジアやアフリカの仮面が掛かっているとか。果ては書棚に「『ユリシーズ』を読むマリリン・モンローの写真が飾ってある」というのだ。ああ、この書店に一日籠りたい。

(評・東京都立国際高等学校 課長代理・司書 宅間 由美子)

(月刊MORGEN archives2019)

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