『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』

ブレイディみかこ/著

新潮社/刊

定価1,350円(税別)

自分と違う誰かのことに無知ではいけない

 学校ランキングが作成・公表される英国で、「裕福な家庭の子が通うランキング1位の小学校」から、近所の「元底辺中学校」に進学した著者の息子さんの一年半を描いた本である。

 本書の舞台になっている中学校は、ネクタイを緩めて生徒と校庭を駆け回る校長先生が熱烈改革中の「元」底辺校。音楽やダンスなど生徒のしたいことを好きにさせる方針で学業成績も上がり、今はランキングの中ほどに位置しているそうだ。

 とはいうものの、数年前まで荒れていて、白人が多くて移民が少なく、貧困層の子も通う中学校だ。そこでは人種や格差による対立が日々起きている。生徒がぶち当たるのは、個対個ではなく社会の問題なのだ。息子さんも、入学早々ハンガリー移民の両親を持つダニエルと喧嘩し「彼はレイシストだ!」と怒って帰宅する(その後友達になる)。幼児時代は低所得者や無職者を支援するセンター内の託児所に通っていた息子さんにとっては「ウェルカム・バック・トゥ・ザ・リアル・ワールド」というわけである。

 息子さんはスポンジのように新しい知識を吸収しながら(彼の発想ときたら、母ちゃんもびっくりするほど豊かなのだ)頼もしく成長していく。英国の教育は、「あえて波風を立ててでも」大事なことがあるなら教えるという。だって世界は学校の中以上に波風が立っているのだから。元底辺校のスクールライフを通して、「対立しても前に進むのだ。自分と違う誰かのことに、無知ではいけない」という、成熟した社会の意志が見えたような気がした。

(評・福島県立福島西高等学校 学校司書 田中 希美)

(月刊MORGEN archives2019)

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