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『庭に小さなカフェお作ったら、みんなの居場所になった つなげる×つながるごちゃまぜカフェ』

みやの森カフェ/著 南雲明彦/編著

ぶどう社/刊

定価1,600円(税別)

自分探しの場所

 霧に包まれた山毛欅(ぶな)の森で見た蝦夷春ゼミの羽化の光景がよみがえった。梢からおびただしい春ゼミが緑に滴るように垂れ下がっていた。生まれ変わりには神秘さが漂う。

「みやの森カフェ」で羽化した人たちの話はさまざまだ。例えば「なんで生きていなきゃいけないのかなぁ」と思っていた人が、「生きているのも楽しいかも」と歩き始めたり、娘が不登校になったお母さんは、そのことをオープンにすることで気持ちが楽になったと語る。どうしてオープンにできたかというと、このカフェでの「つながり」があったという。うつ病で薬を飲んでいる人、自傷行為を繰り返す人。外国人や障がい者。リタイヤした老人から子どもまで、さまざまな自分探しがこの森では繰り返されている。

 なぜこのカフェでは羽化が可能なのか。答えの一つは固定しない、執着しない場所だから。私たちは無意識の内に一つの価値観によって思考し行動している。そのことに気づき自分の言葉で語り合い、聞き合う場所。集まる人たちによって、変幻自在に新しいつながりが生まれる場所がここなのだ。障がいを持つ妹を「障がい者」という言葉で括った瞬間から、妹は消え世界は「障がい者」と「健常者」とに二分され、更に「強い」「弱い」という画一化された特性までが付いてくる。かけがえのない妹の存在を取り戻すには、どうすれば良いのだろう。

 執着のない心地よさ。自由に自分探しができる、幾度でも羽化が可能な安心感。地球がこのカフェのようになる日を、希望として生きようと思う。

(評・スクールカウンセラー 立花 正人)

(月刊MORGEN archives2019)

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