『とろ とっと』

内田 麟太郎/文 西村 繁男/絵

くもん出版/刊

定価1,300円(税別)

言葉遊びで列車は地球をかけめぐる!

「とろ とっと とろ とっと…」リズミカルなフレーズの枕詞で絵本作品を紡ぐ内田麟太郎氏。相棒の西村繁男氏との不思議な交友録から本書は編まれました。

 海沿いを発車したトロッコ電車。どなたもどうぞの列車には奇想天外なお客が次々と乗り込みます。ここではユーモアのある言葉が交わされ、〝ちゃわんむし″を名乗る者と相談するのは、〝むしば″を患うカミキリやイモムシたち。はたまた〝なきべそ″がべそをかいて席を求めてきます。千客万来の客車には停車のたびに新たな仲間が加わります。列車の行く先は世界の果てまでも。シロクマの棲む氷の極地から異郷の荒野を経由し、蒸気機関車を乗せて? ようやく満員。と思いきや、これを遠目で見ていた巨大な岩石までも、寝そべるように屋根の上にちゃっかりと陣取ります。

 世界地図を見渡せば色分けされた国境で往来もままならない現代。それでも列車はお構いなしに線路を走り続けます。内田氏が得意とするナンセンスな言葉選びの魔術は、おなじみのキャラクター登場でグローバルにそのすべてを飲み込みます。絵師・西村氏もとりこにし、森や海の仲間たちにとって、隔ての無いきままな語らいを謳歌するパラダイスとして物語は描かれます。さてさて次なる目的地は…。

 内田氏の出身地・福岡県大牟田市は、明治時代以降、炭鉱から大量の石炭を掘り出し日本の近代化に大きな役割を果たしました。かつてトロッコ電車も活躍した関連する歴史的遺産群は「世界遺産」として登録されています。

(評・八女市教育委員会文化振興課図書館係長 大島 真一郎)

(月刊MORGEN archives2019)

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