『子どもの脳幹が危ない!  スマホ・コロナに負けない釣りの脳活効果』

大越 俊夫/著

幻冬舎/刊

本体1,500円(税別)

「釣り」を通した自己対話で子どもの脳幹の生育

「釣り」を中心とした脳幹教育の実践レポートであり、若者を元気にするための方法や知恵が詰まっている。

 自分自身の経験でも、小学校の高学年で夢中になった素手での魚取りや、中学校で没頭した釣りのことが、昨日のことのように思い出され、その後の自分を形作っている気がする。正に魚との命のやりとりを通して、「命をいただく」とはどういうことか、身をもって体験した。自然の闘いを実感し、釣果があがらない間は、自己対話の時間となっていた。

「釣り」は非日常空間で自分の意識を外へ向けやすくなる。そして日常に戻った時は、それまでとは違う自分になる。また、「釣り」は自己対話を保障する。一人で闘い、じっと待つ時間は貴重である。

 レヴィ=ストロースの名著「野生の思考」のことを思い出した。石器時代に脳の構造に飛躍的な進化が起こって以来、その構造は変化していないそうである。しかし、ストレスの負荷や、スマホの多用や、コロナ禍で「脳幹」に異常が起こっているのかもしれない。

 先日観た映画「シン・ウルトラマン」で、人間と一体となったウルトラマンがさりげなく「野生の思考」を読んでいた。人間のことを深く知ろうとしてである。別の外星人が「人間を無気力化し地球を安全に管理する」と言うのに対し、彼は「人間に秘められているポテンシャルを信じて引き出し、自立的な成長を手助けする」と言う。大越氏の実践は、正にこのことである。
 人間が地球を傷つけてきた今の時代「人新世」は、人間に無力さを感じさせる。しかし、人間本来の生命力の根源に立ち返る「脳幹」の働きを取り戻せば道は拓けると、本書は教えてくれる。

(評・埼玉県立秩父農工科学高校 講師 江田 伸男)

(モルゲンWEB 20220531)

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