• 十代の地図帳
  • 青春の記憶に生きるヒントを訊くインタビュー記事

ウスビ・サコさん(教育者)

 ウスビ・サコさん(56)はアフリカ系初の日本の大学の学長経験者だ。若き日、母国のマリを出て中国に渡り、そこで建築学を学んだあと、紆余曲折を経て日本の京都大学に進んだ。

 底抜けの明るさと、時折見せる聡明さでお茶の間のコメンテーターとしても人気だが、その核は何か。賢人の十代を訊いた。

幼い頃の環境は

 私の母国のマリは一言で言うと「巨大な田舎」で、生活はどこも似通っているんです。私が暮らしたのは首都のバマコでもいわゆる下町だったので、それが特に顕著でしたね。思い出深いのは、河や草原で遊んだこと、それにサッカーをしたことです。マリは夏休みは凄く長いので、毎日、日が暮れるまで遊んでいましたね。

その頃の勉強事情は

 マリはとにかく夏休みが長いんですよ。なにしろ3カ月間もあって、その間は完璧な自由時間なんです。宿題もない。当然、親は放っておいても子どもが自分で勉強するわけもないので、都市部に住む大抵の家庭では子どもを田舎に送っちゃうんです。そこで、農業なんかの手伝いをさせる。ただ遊び惚けるよりは良いというわけですね。

 私の家も夏休みになると祖父母の元に送られて、手伝いをするんだけども、なにしろ遊ぶのが大好きだったからね(笑)。手伝い以外は遊んでばかりいるもんだから、結局、次に学校が始まる頃には、前にやったことはすっかり忘れてしまって(笑)。

 ただ良かったのは、私の家には親兄弟のほか、いつもきまって十数人の人たちが田舎から何らかの用事で滞在していた。その人たちが子どもたちの生活に厳しく口出ししてくるんです。親たちはただそれを見ているだけで何も言わない。そんなふうにして、沢山の大人たちに育てられたところはありますね。

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