『雪のたより』

小住 和徳/著 上岡 秀拓/イラスト

夢企画/刊

本体1,500円(税別)

大切な誰かと生きる心地よさを思い出させて

 ある北の国で仲良く暮らすネズミのラスカーとマーシャ。自然豊かな湖や夜空の星を眺める姿は、まるで若いおしゃれな男女のようです。

 そんなある日、ラスカーが仕事で遠い南の国へ出かけることになります。都会の街は珍しく魅力的で、友となったクリストフから、「人生って野球のゲームみたいなもの」「ピッチャーがいくら頑張っても、味方が点を取ってくれなければ、試合に負けてしまう。反対に、ピッチャーがたくさん点を取られても、それ以上に味方が点を取ってくれれば、試合に勝つこともある」「一方が自分の努力で、もう一方が運」と教えられます。

 旅が続くうちに、ラスカーは心細くなってきてマーシャに手紙を書きます。新しい町や村に着くたびに、マーシャから届く返事にラスカーは元気を取り戻していきます。でも南の町へ着くと北の国からは遠すぎて、手紙は届かなくなってしまいます。ラスカーは、しだいに南の国の生活に慣れて、たくさんの友だちもでき、南の国での生活を楽しむようになります。

 そんなある日、空からラスカーの頬に一本の柔らかい毛が舞い降りてきました。北の空を見上げて、胸騒ぎを感じたラスカーは、慌ててマーシャの待つ北の国へ向かいますが……。

 タイトルにもなっている「雪」が、二人の居るべきところを暗示していて大切な誰かと生きることの心地よさを思い出させてくれます。作者の優しい文章と一枚一枚丁寧に描かれた美しい絵は、いつも傍に置いて、ホっとしたくなったときに手にしたくなる大人のための絵本です。

(評・袖ケ浦市立昭和小学校 読書指導員 和田 幸子)

(月刊MORGEN archives2019)

関連記事一覧