清々しき人々 第18回 物語を実在の歴史に転換した H・シュリーマン

商人として成功

 古代ギリシャの盲目の吟遊詩人ホメロス(図1)が紀元前八世紀の後半に記述したとされる物語『イリアス』は翻訳された日本語版でも約五〇〇ページになる大作ですが、ペロポネソス半島に存在するギリシャ王国連合とアナトリア半島に存在するトロイア王国の約一〇年にもなる戦争を叙述した内容です。数多くの神々が登場するので、神話の一種と理解されていましたが、これを実在の歴史の物語だと理解した人物が存在しました。

図1 ホメロス

 その人物とは一九世紀に世界を闊歩したハインリヒ・シュリーマンという人物です。ドイツ北部のユトラント半島の付根に一四世紀から存在したメクレンブルク=シュヴェリーン大公国のプロテスタントの牧師であった父親のエルンスト・シュリーマンの九人兄弟の六男として一八二二年に誕生しました。一三歳になった三五年に地元の学校に入学しますが、貧乏であったため翌年に退学し、食品会社で徒弟として勤務します。

 しかし、貧乏から脱却しようと一八四一年に南米のベネズエラに移住するため渡航しますが、大西洋上で帆船が難破、オランダの領有する小島に漂着し、そこに立地していたオランダの貿易会社に入社しました。ある程度の収入も確保できたので、子供時代からの女性の友達と結婚しようと連絡すると、直前に結婚したということが判明しました。この失恋の痛手から回復するためシュリーマンは貿易の仕事に没頭するようになります。

 そのためには世界各国の言葉を習得する必要があると必死に勉強し、自伝では一五言語を自在に駆使できるようになったと記載されていますが疑問とされています。しかし、商売の才能は優秀で、ロシアに移住してインドの藍色の染料の輸入で成功、さらに一八五三年に勃発したイギリス・フランス・トルコなどの連合とロシアとのクリミア戦争ではロシアに武器を密輸して大儲けし、四一歳になった一八六三年に商売から引退しました。

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