『いま、〈平和〉を本気で語るには 命・自由・歴史』

ノーマ・フィールド/著

岩波書店/刊

本体520円(税別)

「愛おしむ」平和の実践の促しに!

 この小冊子ができるのに三年経過した。まず、宗教者平和協議会における著者の講演。その一年後、同会より発行された講演録。そこからさらに二年の月日をかけて加筆・修正され、刊行したのが本書である。したがって書名の「いま」は、特に2015~18年の日米亜の歴史に照射された、平和を乱す脅威が炙り出されている。

 著者はシカゴ在住の日本研究者であり、2011年の福島原発事故、17年のトランプ大統領就任後の世界の変遷が本書の随所に感じ取られ、全体に並々ならぬ強度を生んでいる。

「いま本気で〈平和〉を語ることは難しい」と著者は語る。なぜなら、「名もなく掴みどころもなく、しかも他の選択はないと迫って来る〈逆さまの全体主義〉を、私たちは生きているのだから」。

 生活と生命、過労死と不登校、福島の復興と被害者の自己疎外、権力側の無責任と一般市民の自己責任、従軍慰安婦問題と歴史観、学問・報道・言論の自由、アジアからの解放の神学……、著者は次々と具体的な事例をあげて問いかける。読者は、その声に耳を傾けるうちに惹きこまれ、いつしか共に考え始める。

 学校現場に身を置く私には、〈平和学習と戦争体験者の語りの難点について、沖縄の元ひめゆり学徒と若者との対話を通して検討する〉というテーマが特に興味深かった。

 あとがきに著者は現状を「逆さまの全体主義が牙を剥き、こちらを振り返った」と記している。ただそれには、「非暴力抵抗の余地がある」とも。読者は、絶望の対極にある抵抗と、お互いを愛おしむ平和の実践の提案に励まされる。

(評・自由の森学園中学校・高等学校図書館司書 大江 輝行)

(月刊MORGEN archives2019)

 

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