
『文豪の凄い語彙力』
山口 謠司/著
さくら舎/刊
本体1,500円(税別)
語彙が思考の深化、論理的判断、適切な表現力をもたらす
若者の語彙力の低下が言われるようになって久しい。いつの時代も若者は新しい言葉や俗語が好きなものだし、古い言葉を知らないのも仕方ないのだろうが、最近やや極端になってきた。辞書を引いても「説明自体がよくわかりません」という声も珍しくないのはさすがに危機感を感じる。
昨今は教育改革で「思考力」「判断力」「表現力」がクローズアップされているが、語彙力がなければ思考の深化も、論理的な判断も、適切な表現もできない。しかし単語帳などで言葉を暗記してもすぐに忘れるだけだし、本をたくさん読めと言っても急にできるものではないし……と長年もやもやしていた中、本書に出会った。
文豪の作品の中から63語を取り上げ、1語につき4ページ程度のわかりやすい解説が付いている。単に言葉の意味だけに留まらず、漢字一字ずつの意味や成り立ちが書かれているのは中国文献学専攻の筆者ならではの特長だ。出典や作者についても端的にまとまっていて、未読の気になる作品をいくつも見つけた。
ちなみに文豪というと古めかしく堅いイメージだが、現存作家や推理小説家なども含まれており、身構える必要は全くない。中高生にも「こういう表現があるのか」と面白がって、気に入った言葉をひとつでも見つけて文章に使ってみて欲しい。
最後に、収録されている言葉をいくつか使って分を作ってみよう。
「たとえ誹謗されようとも慨嘆することなく恬然としていたいものだ」
さて、生徒にはどれくらい意味が伝わるだろうか。
(評・共立女子中学高等学校 教諭 金井 圭太郎)
(月刊MORGEN archives2018)