『遊びが学びに欠かせないわけ 自立した学び手を育てる』

ピーター・グレイ/著 吉田 新一郎/訳

築地書館/刊

本体2,400円(税別)

学校教育の持つ不条理の原因は?

 来春定年を迎える私の小学校時代、地域の異年齢の少年たちと一緒に秘密基地を作ってよく遊んでいた。そこでは、基地での「遊び方ルール」が自然にできあがり、「助け合いの精神」も育まれた。地域は遊びの場であるとともに、学びの場でもあった。一方で、学校は、「仲間と暮らすいいところ」であるとともに、「苦役としての勉強をするところ」であり、「息苦しさを感じさせられるところ」でもあった。

 教員生活を通して、学校の良さとともに、学校の持つこの息苦しさの原因がいったいどこにあるのかがずっと気になっていた。この本には学校教育の持つ不条理の原因が、第4章「強制された教育制度の7つの罪」において、歴史的な背景をもとに論理的にわかりやすく述べてある。

 ワールドカップや災害があるたびに日本人のマナーの良さや道徳心が世界で注目されるが、今の日本の若年層の道徳心を憂いている人も存在する。現政権の選択により、高校現場で道徳の授業がはじまり、評価されることになった。道徳教育の教科化により、教師や社会の期待する考えを生徒が推し量り、それに忖度して行動しようとするような画一化に向かう危険性が懸念される。また、生徒の評価が製品の品質チェックのようになってしまい、生徒の内心の自由を侵害してしまわないかという危惧がある。

 学びの本質は、「自由の保障」のもとに、元々向学心を持って生まれた人間が遊びを通して協力し合って学んでいく営みにある。本書からは、学び、遊び、教育についての多くの示唆が得られる。

(評・神奈川県立横浜緑ケ丘高等学校 総括教諭 伊福 龍哉)

(月刊MORGEN archives2018)

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