『歎異抄はじめました』

釈 徹宗/著 大平 光代/著

本願寺出版社/刊

本体1,400円(税別)

七百年以上続くロングセラー

 宗教学者の釈徹宗氏と弁護士の大平光代氏の対談で、宗教書であり教養書であり哲学書である『歎異抄』の入り口が開かれます。「絶体絶命の時に浮上する言葉」が、現代語訳で分かりやすく解説されています。

 弁護士という「人のわざわいの中に身を置く」職業の大平氏ならではの視点が、随所に散りばめられて、悩める人たちに最適の書であることがわかります。親鸞聖人の本物の言葉が、心と身体にしみ込んで、ピンチの時に浮上する様子が、大平氏の紆余曲折の人生の中に例示されています。

 若者たちとの対談の章もあります。ある若者は「自分自身という枠が強くて、その中に引きこもってしまう」と指摘して、「他者の苦しみや喜びを当事者意識で引き受けることが苦手になっている」と言います。『歎異抄』の一言一言に耳を澄ますと、その枠を弱くしてくれ、当事者意識を芽生えさせてくれるという。釈氏いわく「歎異抄」は「当事者の書」であると言います。「他人事ではなく自分事」であり「いつも当事者側に立つ」という視点で読めば、心の深層に響きます。

 若者たちの何人かは、優等生病や母親のものさしなど、「べきものさし」に囚われていると指摘しています。そんな時に、『歎異抄』は私たちが持っている「ものさし」を壊してくれ、他者評価と自己評価を近づけてくれるという。そんな二つの評価が近いと、人は安定します。

 この七百年以上続くロングセラーの書は、「君たちはどう生きるか」の古典バージョンです。

(評・埼玉県立小鹿野高等学校 教諭 江田伸男)

(月刊MORGEN archives2018)

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