『子どもの人権をまもるために』

木村 草太/編 内田 良ほか/著

晶文社/刊

本体1,700円(税別)

広範囲にわたり危機的状況の進行を知る

 すべての内容がズシリと重い。重いけれども、これからの時代に希望を感じさせてくれる本でもある。

「人権」という言葉を、私たちは「当然のこと」のことのように聞き流してしまいそうになるが、その切実な価値を私自身が本当に理解しているかと言えば甚だ危うい。さらに「子どもの人権」となると、自分とは縁遠い世界のことのように感じて来たのが実際のところだ。

 この本は、その「子どもの人権」がどれほど広い範囲にわたって、どれほど危機的な状況が進行しているかを、その危機と直接向き合い続けてきた人々が執筆している。それだけに、実際にあった生々しい事例と執筆者の経験の数々が読む者の胸に迫って来る。

 同時に、執筆者たちは、日常の中では見えにくい、私たちが抱えている課題の構造と本質を冷静な目で明らかにしてくれている。例えば、待機児童問題について駒崎弘樹氏は「自治体が法律違反を犯している」のであって「行政による人権侵害」と分析し、内藤朝雄氏は現代の日本の学校の姿が、「生徒らしさ」「学校らしさ」を強要し続ける「学校のコスモロジー」であることを明らかにしている。

「課題」とは、それが見えた瞬間に解決への道が開かれていくものだと思う。もちろん、この本に書かれたさまざまな課題は膨大な時間と労力の積み重ねを要求するものだ。だが、木村草太氏の言う「権利侵害があまりに一般化していると、それを権利侵害と認識することが難しい」という私たちの現状のその一方に、それらを乗り越えていくためのステップがあることをこの本は示していると思うのである。

(評・広尾学園中学校高等学校 副校長 金子 暁)

(月刊MORGEN archives2018)

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