『ことわざのタマゴ 当世コトワザ読本』

時田 昌瑞/著

朝倉書店/刊

本体2,300円(税別)

出典や用例、類例など詳しい解説も楽しい

「人の生くるはパンのみに由るにあらず」という聖書由来の言葉はよく知られていますが、私はそのあとに続く「神の口より出づる凡ての言に由る」という言葉にこそ人間の本質が示されていると思っています。というのは、神様の口から出たかどうかはともかく、人は言葉によって精神的に生かされているからです。

 たとえば「艱難汝を玉にす」という言葉を知っていれば、困難に出会って苦労が絶えなくても、「その困難は自分を立派にするためだ」と前向きに受け止めることができ、また、「恩は石に刻み恨みは水に流せ」という言葉からは、人生の指針を学ぶことができます。

 あることがきっかけとなって、それまでわからなかったことが急にわかったときに「目から鱗」と言います。この言葉も聖書に由来していますが、本書にはその意味のみならず出典や用例、類例など詳しい解説があって、読み物としても十分楽しめます。

「赤信号みんなで渡れば怖くない」はテレビ時代が生み出した現代のことわざと言えるもので、1979年に産み落とされたタマゴが孵化して2000年には『岩波ことわざ辞典』に収載されました。

『ことわざのタマゴ』と題した本書は、現在実際に使われていることわざ(めいたもの)を明治時代から現代に至るまで約8000を収録しています。様々な世相史や文化史をうかがい知ることのできる本書は、通常の索引に加えて人名や欧文、トピックスの索引も充実しており、ことわざ辞典としても重宝します。豊かな精神生活を送るためにも座右に備えておくべき一冊です。

(評・東山中学・高等学校 副校長・校長代理 福地 信也)

(月刊MORGEN archives2018)

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