『転換日本 地域創成の展望』

月尾 嘉男/著

東京大学出版会/刊

本体2,600円(税別)

 今から二〇年前、私のいた長野県の高校の文化祭で当時すすめられていた市町村合併について生徒会が全校アンケートをとった。結果は八割の生徒が合併に反対。その理由の一番は「今、住んでいる町や村が好きだから」だった。今の若者たちは都会志向ではなく、地元が好き、自然が好きだと分かった。

 地元が好きな若者たちに対し、このままいくと地方は消滅する、それをくい止めるには地方の中核拠点都市に移住して「選択と集中」を図りなさいと勧めているのが国の方針である。

 このような政策ではなく、自分たちの住む地域の空家や過疎や離島というマイナスの原石を宝石に変えている地域創成の取りくみを紹介したのが本書である。

 とにかく面白い。ここに登場する人々は「人口一人の限界集落をエコツーリズム村に」「山村の空家を蘇生させたドイツ人建築家」「自宅を改装してカフェ開店、そして商店街を再生」「クラゲで成功させた田舎の水族館」「子ども向けやきそばを名物にしてまちおこし」「高校生も商品開発に参加した人気農村料理レストラン」「都会からIターンしてくる島根の離島」「長寿日本一で医療費全国最小の山国長野県」等々。

 地域づくりへの高校生の参加が広がっているが、この本は、地元を愛し存続させたいと思っている若者、地域活性化に取りくみたいと思っている若者にぜひ読んで欲しい本である。

 著者は現在本紙で「清々しき人々」を連載されている月尾嘉男さんで、本紙に連載され好評を博したものである。

大学の授業でも紹介していきたい。

(評・首都大学東京(現・東京都立大学)特任教授 宮下 与兵衛)

(月刊MORGEN archives2018)

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