「わたしのマンスリー日記」 第3回 「壁のないコンサート」

 私が音楽好きになったのは中学校の音楽の授業との出会いでした。昔も昔、大昔の話です。平賀先生という男性教師の授業が<ただ>好きでした。作曲の真似事をしたこともありますし、挙句の果てはブラスバンドに入りトロンボーンを担当することになりました。入部して間もなくのことでした。市のブラスバンドの大会に出場することになり、私も壇上に上がることになりましたが、その時先生に言われたのが次の一言――。

「谷川、トロンボーンを動かしてもいいが、音は出さなくていい」

 まだトロンボーンに慣れていない私を慮(おもんばか)っての言葉でした。今にして思えば良き時代でした。かくして私は一回も音を出すことなく演奏は終わったのでした(笑)。

「音楽のチカラ」

 そんな音楽経験しかない私にとってこのコンサートは大きな衝撃でした。クラシックからカンツォーネ、オペラなどの声楽、ピアノ・バイオリン・アコーディオンの演奏、さらに合唱団による歌唱、そして取りは坂本冬美さんと五木ひろしさんの熱唱でした。

 3時間に及んで次々に繰り広げられるアーティストたちのパフォーマンスに私は「圧倒」されっぱなしでした。それは単なる「感動」などといったレベルを超えて、全身に音楽の波が怒涛のように覆いかぶさってくる感覚でした。そうか、これが「音楽のチカラ」なのか!

 どうしたらあんな声量が出せるのだろう。ピアノやバイオリンやアコーディオンの演奏はどうだ! どうしたら神業のようなあんな演奏ができるのだろう。少年時代、一度もトロンボーンの音を出すこともなく壇上を去った私にはまさに衝撃以外の何物でもありませんでした。

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