『ジャーナリスト後藤健二 命のメッセージ』

栗本 一紀/著

法政大学出版局/刊

本体1,400円(税別)

命がけで届けられたメッセージを受け取る

 今もどこかで争いが起き、その中で命を落とす人や、大切な人を失いながらも懸命に生きている人がいる。その場から遠く離れた私たちがただ日常生活を送るだけでは決して触れることのない現実を、命がけで伝えようとする人たちがいる。ジャーナリストである。

 2015年1月、後藤健二という1人のジャーナリストがイスラム過激派組織ISに拘束され殺された事件は記憶に新しい。本書では、同じフリージャーナリストで生前の彼と親交の深かった著者によって、後藤さんの生き様を通してジャーナリストという職業とその意義について丁寧に語られている。

 ジャーナリストは何か大きな出来事が起こると真っ先に現地に飛んでいく。スクープを撮れば高い報酬が手に入る確率は上がるが、彼らの動機は決してそれだけではない。彼らには、目を背けたくなるような辛い現実から逃げずに、それを国に持ち帰って多くの人に責任を持って伝えるという使命がある。

 後藤さんは、いつでも弱者に寄り添っていた。彼を突き動かしていたのは、戦争という非日常の中でも日常の営みを続けている人たちの声を届けるという使命感だったのだろう。

 同時に彼は、自分を攻撃する人間をを憎むことはなかった。憎しみは憎しみの連鎖を生み、善意は善意の連鎖を生みだすことを彼は知っていた。そしてその善意は、まず関心を持つことによってしか生まれない。

 だからこそ私たちは、彼らが命がけで届けてくれたメッセージを受け取り、次の行動に繋げる責務がある。彼らは私たちの背中を十分すぎるほどに押している。

(評・東京 明治学院高等学校3年 久保島 結希)

(月刊MORGEN archives2017)

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