• 十代の地図帳
  • 青春の記憶に生きるヒントを訊くインタビュー記事

小野正嗣さん(作家)

 作家・小野正嗣さん。96年のデビュー以来、数々の賞を受賞すると、2015年には『9年前の祈り』で見事芥川賞を受賞。同時に、教育者としても数々の大学で教鞭を執り、着実な歩みを続けている。大分県蒲江町——海沿いの小さな漁師町で、町全体に守られるように育てられた幼い頃、飛び出した大都会で青年が見た夢とは……。十代の地図を開いた。

大分のお生まれだとか

 僕が過ごした蒲江町は、田舎の小さな浦(入り江の漁村)でした。海ばかりの漁師町の外界からは隔絶された空間のなかで、濃密な人間関係に包まれ育てられた幼年期を今も懐かしく思い出すことがあります。もっとも、僕と同じ世代は町にはもうほとんど残っていませんけどね。当時通った小学校も、数年後に廃校がきまっていると聞いています。

ご両親はとても働きものだった

 そうですね、ただ僕の印象では、当時、田舎はどこの家庭でも両親は共働きが普通でした。地元で水産会社を営むような家の奥さんも、やはり同じように毎日働きに出て行く。それは里帰りする今も当然のように目にする光景ですね。

親と過ごす時間は当然少なくなる

 そんな環境ですから、やはり子どもたちを見守る地域の目は重要ですね。これは田舎の良さの一つですが、親が仕事で留守であっても、必ず誰かしら近所の人たちが見守ってくれるんです。そうして情報を共有、伝達することで、事故等を未然に防ぐことが多くあった。僕の頃も、小学校ばかりか中学まで地域の目撃情報が細かく連絡されていました。他にも、お腹を空かせているとご飯を食べさせてくれたり、常に気に掛けてくれましたね。

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