『「問う力」を育てる理論と実践ー問い・質問・発問の仕方を探る』小山義徳さん
今春、ひつじ書房刊行の『「問う力」を育てる理論と実践――問い・質問・発問の仕方を探る』――、昨今のインターネット普及で価値の暴落した従来の暗記・知識伝達型教育から、知識活用型教育に舵を切る最新学習要領の一助を画す格好だが、その核に置く「問う力」は、単純な疑問符ではなく、思考を深め創造力を養うための自立思考のシステムだ。グローバリゼーションにテレワーク――、現代に求められる人材とは何か……、編者・小山義徳千葉大学教育学部准教授に話を訊いた。
刊行の目的、内容は
いわゆる自立思考を促す教育書は、今まで特にビジネスの方面で多く出ているんですが、そのほとんどが実践寄りで背景の理論に欠けているんです。その点、この本はその両立を狙って作っているので、そこが片手落ちになることはありません。ただその反面、若干の難しさを感じさせてしまうかもしれませんね。ともあれ、そこも各章ごとに専門家を配して実践と対になる背景理論を、できるだけ分かりやすく説明しているので、現場の先生方にはそこをうまく使ってなんとか学生さんを導いて欲しいと思います。もし、内容と現実の状況に多少のズレがあっても、背景の理論さえキチっと押さえれば応用は可能なので、本の進行通りに「実践+背景理論」のセットで進んで行ってもらえれば必ず大丈夫なはずです。
教育現場はどう対応を
今までは授業で教師が発問していた部分を、今度は生徒たち自身で作るように導く教育に変わるわけです。先生方からすれば、自分たちの受けた教育と違うものを生徒たちに教えることになるので、当然、戸惑いはあるでしょう。ただ、従来の知識暗記型、あるいは伝達型の教育は、本書の知識活用型の教育と二律背反(正、反命題どちらにも証明できる矛盾・パラドックスのこと)するものではないんですよ。どちらかといえば、今回、新たに加わった知識活用型の土台となるのが、今までの知識暗記・伝達型なんです。
つまり二つは完全に繋がっていて、どちらか一方でもダメというだけなので、従来の暗記型教育をやりつつも、それに加えて知識活用型の実践も入れていく、という程度の認識でいいと思います。これについては、本書の第4章に「児童の問いに基づいた小学校道徳授業の展開-木下竹次と手塚岸衛の大正自由教育の実践を踏まえて」という好例があって、授業の前半は先生が生徒に扱う題材について解説をし、後半に児童にそれについての問いを作ってもらったり、その問いに基づいた話し合いを行っている。これはつまり、前半は従来の知識暗記・伝達型、後半に知識活用型をやっているわけで、やはりどうしたって知識のインプットなしにアウトプットは出来ないということなんです。そういう意味で先生方は必要以上に身構える必要はないんですね。