『アナログゲーム療育』松本太一さん
療育法完成までの道のりは
発達障害者の社会参加の最重要課題がコミュニケーション能力だというのは分かった。と、同時に分かってきたことがあったんです。そうした社会適応能力は、いざ就職となってから職業訓練のようにやるのでは、なかなか身につかない。子どものころからの、子ども同士の関り合いが必要不可欠なんです。そこで、まずは子どもたちを知ろうと「放課後等デイサービス」――放課後に障害児が通う教室に入ることにした。そこは毎日10人くらいの子どもが通ってくる教室だった。年齢は小学生から高校生と幅広い。まだ言葉が出てこない子もいれば、IQが高すぎて、周りと話が合わないという子もいる。混然と過ごす子供たちを見ながら、いったいどうすればこの子たちに臨機応変な社会性を安全に楽しく学ばせられるか、と考えた。そこで着目したのがゲームというツールだった。ゲームを通じてより柔軟なコミュニケーション能力が身につくのではないか、そう考えたんです。
ゲーム療育の意義とは
ゲームを理解するというのは、まず言葉や数を理解する。そのうえで、プレイヤーとして手札を使いこなす、ということです。これは、非常に学校の勉強――教科学習との関連が深いです。ゲームをすると、いつも順番を間違える子がいる。おそらくADHDだろう、大人たちは思う。ところが試しに数を数えさせてみると〝3個″が数えられないと分かる。2個までしか数えられない。「3つあとが君の番ね」と言われても、そもそも「3つ」が分かっていなかったんですね。彼はいつも「順番を守らないからアイツとは遊ばない」と言われて仲間外れになってきたけど、よくよく調べると、数が数えられない。教科学習の遅れが根っこにあることが分かった。もうひとつは、大人の観点ではコミュニケーションは結局「情報のやりとり」です。情報は言葉や数で示されますから、その取扱いを学ぶことになるわけです。
療育の効果を実感するのはどんなとき
「お友達と遊べるようになりました」というのが一番ですね。ある日突然、障害者教室に来なくなる子がいるんです。友達と約束しているから今日は行かない、と。「何やってるんだ」と聞くと「友達とカードゲームをしてる」という。確かに、来た頃はよく癇癪を起してルールを破っていたその子は、最近では同年代とも落ち着いて遊べるようになっていた。そして、そうなった段階で今度は自分で外で友達を見つけ、出て行ったんです。これは大変な進歩だと思います。