まとば ゆうさん(ピアノ芸人)

 今度は自分がいくつかの場所からひとつを選ぶわけだが、意中と向かった面接にまさかの惨敗。落ち込む背中に、起死回生の一報が転がり込む。それが現所属・太田プロダクションのスカウトだった。「平場でぎゃあぎゃあうるさいのも平野レミさんみたいでいいよ」会いに行くと担当者は柔和な顔で口火をきった。ネタもすごくいい、と続ける。披露したのは「手短に名作ストーリー」。面接は終始穏やかに進み、最後、供された「叙々苑の焼き肉弁当」でまとばさんの心は完全に固まった、というのは冗談のような本当の話である。

「ずっとライブ中心だったので、ついその場限りの笑いを求めて突っ走っちゃう癖がある。その辺テレビは勝手が違って、もっと決まり事が多いし、バランスが必要で……。だから、いまの目標はどの現場に出ても恥ずかしくない芸人になることなんです」

軌道に乗りはじめたいまを訊ねると目を輝かせた。いまの持ちネタの替え歌は、ほぼすべてに原曲がある。それがネックとなり、テレビではできないこともしばしばだ。これからはオリジナルの楽曲で面白い歌ネタを作りたい――そんな決意の眼差しのあと、

「ピアノはやってきたけど、歌はやってこなかった。それがずっとコンプレックスで。それでいま週4回ボイストレーニングに通っているんです。来年のいまごろにはスーザン・ボイルさんのような奇麗な歌声になってると思います(笑い)」 人を幸せにする笑いを目指して――太陽のような指先はあくまでも楽しげに音の地平を照らしてゆく。

まとば ゆう 1985年、神奈川県生まれ。2010年、日本大学芸術学部大学院作曲科卒業。2016、17年「R-1グランプリ」(KTV・フジテレビ系)準決勝進出。17年「女芸人No.1決定戦THE W」(NTV系)決勝進出。一般社団法人日本作曲家協議会会員。

(月刊MORGENarchives2018)

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