蓮見 孝之さん(アナウンサー)
テレビの世界へ
「なぜ入れたんでしょう」そう問うと、私が聞きたいですよ、と頭をかいた。ただ、入社したTBSの人気番組『ウンナンのホントコ』、Jリーグのスタジアムアナウンサー、学生時代に飛び込み、体当たりで経験したことが、自信と実績に繋がったかもしれない、そう続ける。そうして、実は、アナウンサーの内定を貰った後も、教育実習に行ったんですよ、と神妙な面持ちをする。テレビカメラに向かい、話をする場合、液晶レンズの向こう側で、話を聞く表情は、想像の中にしか浮かばない。その点、学校の教師には、生徒たちの表情をじかに見ながら、話しをできる楽しさがある―先日ゲストティーチャーとして招かれ、実感した時のことを例に、熱く語り、だから本当に迷いました、と深く息をついた。
迷った末、選んだのは、針の穴を通す倍率を突破し、掴んだアナウンサーの仕事。しかしもちろん、そこには様々な難しさがある。例えば、ニュースに携わる現在は、仕事中に笑顔になる瞬間はほとんどない。常に、人の生死に関わり、時として、犯罪者の家族にもマイクを向ける。道行く人への街頭インタビューも、簡単ではない。時には〝話しをしたくない″そんな人達から言葉を引き出すことが必要なのだ。カメラを向けることも含め、どうしても難しくなることが多い。まして事件被害の当事者と関わるのは、経験したものにしか分からない辛さがある。それでも、現場に立ち、当事者に向かい、仮にその声が拾えなくても、その痛み、悲しみを代わりに届ける役割ができたら、そんな想いが胸にある。
また、担当するNEWS23は、TBSの名物報道番組。だが、夜の報道は激戦区。他局との差別化、いかに付加価値をつけるかは、常に抱える難問だ。限られた時間の中で、伝えたいことが伝えきれない、そんなジレンマがいつもある。難しい話題を、出来るだけわかりやすく伝えるのも、大事なテーマだ。〈難しいことを難しくやりすぎないように〉打合せでは、なるべく角が立たないように、その点を指摘することもある。とはいえ、バランスは大事。安易に走らず、難しくなりすぎず、視聴者に、出来るだけ多くの付加価値を提供する番組作りを志す。ネットやフリーのジャーナリストが発信する、膨大な記事、情報が電子上に氾濫する時代、ただ、型通りのニュースを流すだけの番組を作っても、多くの反響は得られない。だからこそ、そこはつきつめないと、と意気込む。