まとば ゆうさん(ピアノ芸人)

「手短に名作シリーズ」――名作アニメや名作映画のあらましをその劇中曲にあわせ短く弾き語るお笑いネタだ。演者はお笑い芸人・まとばゆうさん。輝くティアラと電子ピアノがトレードマークだが、もっとも目をひくのはやはり自由自在の指先だろう。作曲にも通じるという俊英の紡ぐ音符のはじまりとは……。夢を生きる力を聞いた。

音楽と暮らした少女時代

 神奈川県横須賀市――大都市の喧噪に基地の異世界が織り混ざる、どこか不思議な港町で、まとばさんは幼い時期を過ごした。公務員の父に専業主婦の母、優しい祖母。穏やかに流れる時のなか、ひとり娘はのびのびと手足を伸ばす。

「少し人見知りはあったけど、音楽が好きで、人前に出るのも好きでした」

 そうはにかむ若葉の記憶のはじまりは、5歳から通いはじめたヤマハ音楽教室の光さす部屋、あるいは祖母の嗜んだ民謡、日本舞踊の調べだろうか……。いずれにしても家は音楽に満ちていた。音楽が好き――。ランドセルを背にしてからも、少女のそんな気持ちは一向に薄れなかった。たしかに運動は苦手だし、ほかに目立った特技もない。それよりは得意な音楽の方がいい、というのもなくはない。それでもやはり、「好きなものは好き」という気持ちが大きかった。

 中学にあがると、ソフトボール部に入った。音楽はもちろん好きだが、なにしろ青春は一度きり。どうせならほかのものにもチャレンジしてみたい、と勇み飛び込んだのだ。が、生来の運動神経の鈍さは重く、なかなか身体は思うように動いてくれない。星のめぐりも悪いようで、部員がひとり、またひとりといなくなってゆく。気付いたときには、自分以外にもうひとりだけ。キャッチボールしかできない状況に陥ると、ついに部は廃止された。

 高校に進むと、音楽への志向はいよいよ強くなる。将来は音楽の道へ――。そういう話になると決まって父が「安定を」と割り込むが、娘を応援する母の強力な援軍にあい、やがて言葉を飲み込んだ。大学は日大芸術学部音楽学科に入学。作曲を中心に学びを進めると、そのまま大学院へ。そのころの憧れは作曲家・久石譲――。ジブリから北野映画まで、楽曲提供にライブにと幅広く活躍する姿に、理想の自分をなぞらえる。夢は「全国区の音楽エンターテイナー」。が、しだいに自分は表舞台に立ちたいのだ、と気付きはじめる。もやの向こうの未来が新鮮な渦を巻き始めていた。

関連記事一覧