『日本語を味わう 名詩入門 全加巻』萩原昌好さん
「絵」と「詩」の共存は難しいと
詩作に挟む挿絵は、あくまでカット程度に留め、その情景をそっくりそのまま描いてはいけません。特に子供にとってはどうしても絵が印象の中心に来てしまいがちですからね。目に飛び込んだ画像で先入観も植え付けられてしまいます。『日本語を味わう名詞入門』には、カットが盛り込まれていますが、この点には特に気を使いました。詩の邪魔にならないカットを丁寧に配置されたつくりも、他の詩集にあまり見られ無い美点ですね。
詩の選定で特に力を入れたところは
一見すると易しいけれども、内容としては難しい作品をうまく解説してまとめる、という点です。なにしろ、以前のシリーズに収録した詩から、全て読み直し、精査していきましたから大変苦労しました。30年前と今とでは、どうしたって読者に訴えかける内容や方法も、変わってきます。企図に沿いながら、山之口獏の風貌、作品の推敲課程や、石垣りんの生活感覚など、詩人一人ひとりの感性を取り出しては、深く調べなおし、作品を吟味しましたから、どうしても時間はかかりましたね。
特にお勧めの詩などご紹介いただければ
それはなかなか難しいですね(笑い)僕自身は宮沢賢治を専門にしていますが、例えば、八木重吉が自分の娘に宛てた
『桃子よ』
もも子よ
おまえがぐずってしかたがないとき
わたしはおまえに げんこつをくれる
だが 桃子
お父さんの命が要るときがあったら
いつでもおまえにあげる
という詩があります。自分の命をいつでも「やる」ではなく、「あげる」という言葉には、サラっとした言い方の中にも、親としての深い愛情を垣間見することができます。三好達治は当初難しいかと考えていましたが、読み解くとそうでもなくて、仏詩人に強く影響を受けた初期の作品から、だんだんと日本風な詩作へ回帰していくプロセスがはっきりと見て取れます。それらは生き物の生態から人間の孤独を描出する『春』、静かなリフレインがノスタルジアを演出した『雪』などに容易に汲み取れるでしょう。まど・みちおの『このよでは』では「蚊がおしっこをする」という発想の凄さ、ユーモアに圧倒されます。こうして読んでいると、どの作家、作品にも魅了されるべきものがあり、仕舞には、全ての詩人を好きになってしまうんですよ。