中村 すえこさん(作家・映画監督)
「女子少年院の少女たち」を通して伝えたいことは
4人のうち半分は、経済的には割と裕福な家庭なんだけど、大事なことを両親から教わってないというケースで、残りの二人は、もう世の中の当たり前を全然知らなかったんです。児童養護施設で育った子は、お母さんが欲しいと思ったことない? と聞くと、他の子のところに面会に来るのを見ると羨ましかった、とだけポツリと言っていた。でも、もうその時点で世間一般のお母さん像と違うじゃないですか。彼女は本当にお母さんというものが家の中でどんな存在かというのを全く知らない子で、会ってすぐ、私にはこの子を理解するのは難しいんだろうなと思った。彼女には、幼稚園に迎えに来てくれたり、一緒に誕生日を祝ったり、風邪のとき母に看病してもらったような記憶は何一つ無いんです。そういう当たり前の愛情を知らない子が誰かに愛情を与えてあげるなんて出来るわけもない、そう思った。
でも、映画の撮影を通して、そうした愛情は何も親でなくても与えられるんだというのを私も知った。そういう私の内面の気づきも含めて訴えたいと本を書きました。今の社会は〝自己責任″とか〝無関心″が当然の風潮のように蔓延していますが、登場人物のある少女は、母親と共依存の関係で、その母は薬物中毒なんです。そんな環境で罪を犯して全て自己責任で済ますのは流石に違うと思うし、もっと言えば、その母にも助けの手が差し伸べられたら……、そんな優しい社会を目指したいですね。
1975年、埼玉県出身。15歳でレディース(暴走族)「紫優嬢」の4代目総長に、抗争による傷害事件で逮捕、女子少年院に入所。17歳で仮退院後はレディースを破門となって生き方を見失い、覚醒剤に手を出し再逮捕。その後、周囲の支えを受け新たな道に。2度の結婚、離婚を経て4人の子を持つ母となる。2009年、少年院出院者自助グループ「セカンドチャンス!」を仲間とともに立ち上げる。2020年、最終学歴中学校から通信制大学を卒業し、44歳で高校教員免許を取得、高校教師を務める。
(月刊MORGENarchives2020)