林 典子さん(フォトジャーナリスト)

人間の尊厳を撮る

 林さんと言えば、『キルギスの誘拐結婚』(キルギスの婚姻風習:アラ・カチュー)に代表される社会派の作品だ。そして、そのルーツはやはりガンビアにある。ガンビアはアフリカでも最小の国だ。日本を含めた多くの国のニュースに、その出来事が流れることはまずない。ところが、新聞社で働き、現地の仲間と行動を共にすると、日々、様々な出来事に出会う。他国に決して流れない小さな事件が、この国ではとても大切なのだ。ガンビアでは、言論や報道の自由は保障されない。そんな環境の中で、記者たちの仕事はまさに命がけだ。彼らの姿をまじかで見るうちに、伝える仕事は、本当に大事だ、そう思うようになった。

 取材をすると、時には、取材対象者の家に泊まりこみ、数ヶ月を費やすこともある。言葉も通じない相手に、女性が一人、危険では、と、日本ではよく声をかけられる。けれども、国や土地、相手の事前調査を入念に行い、地道にアポイントを重ね、コミュニケーションを深めた上でのこと。会った日から泊まる事もあれば、宿泊先から何日も通い、それから泊まる事もある。国や相手に合わせ、都度変わるが、バックパッカーで、見知らぬ国を回るような危険は、決してない、と語る。それでも、海外に出て、写真を撮っていると、思わぬ反応に出くわすことも多い。キルギスやカンボジア等、危険と見なされやすい土地に、女性が通うのに否定的な見方もあるのだ。女性の人権侵害を題材にするうち、図らずも、日本国内の、女性の可能性を限定する価値観とぶつかるようになった。海外では、現地に駐留して、活動する女性のNGO職員も多い。自分よりはるかに危険度の高い仕事が、普通に受け入れられている。

 今もイラクを撮影するが、フランスの『ルモンド』、イギリスの『BBC』、それにアメリカの友人写真家と家を借り、そこを拠点に活動する。現在のイラクは大手メディアが多く出入りし、取材をする国。海外でのハードルは決して高くない。それが、他国の若い記者に混じり、取材して帰国すると、日本では〈自己責任論〉に基づく批判前提で、活動の発表をすることになる。そしてそこでもまた、〈女性〉ということが槍玉に挙げられる。ジレンマは感じるが、取材し、撮影した作品を目にして、少しでも、多くの人が何かを感じてくれれば、志を胸に、そう眼差しを上げる。キルギスの誘拐結婚、パキスタンの硫酸に焼かれた女性等、直接の支援が難しい人たち、それでも、彼女らの考え、思いを伝えることはできる。

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