沼口麻子さん(シャークジャーナリスト)
休職期間は半年だった。その間に復帰か転職か、決めなければならない。友人たちはこぞって復職を奨めたが、考えるだけで体の調子が悪くなった。となれば転職しか無い。アルバイトでもなんでも端から受けたが、結果は振るわず。気付くと残る手はもう一つしか残っていなかった。仕事がないなら自分で作るしかない――動かない体をむち打ち活動を続ける。そうして参加した営業セミナーでついに自分の強みに気付くことになった。それは人一倍、生き物が好きな事、とりわけサメが好きな事だった。途端にそれまでの暗中模索が嘘の様に視界が開ける。「シャークジャーナリスト」誕生の瞬間だった。
自分は海洋学者の世界ではサメに特別詳しいとは言えない。それでも環境を、景色を変えれば、唯一無二になれるかもしれない――、そう気付いた。動き出すとすぐ活動は軌道乗る。イベントのトークショーに雑誌の連載、各種学校での講義、講演、サメ合宿……活躍は多岐にわたる。話の終わりにシャークジャーナリストのスタンスを訊くと、現代は、専門家と一般人の知識がかけ離れすぎている。その隙間を時にメディアが面白おかしく埋めようとするけど、私はサメというコンテンツを使いその橋渡しをしていきたい。サメは〈人食い〉の汚名を着せられ恐れられている。けれども本当はおとなしく臆病な種が殆ど。人は襲わないんです。水中撮影に行っても警戒されて10回に9回は会えないくらい。サメは100%安全ではないけど、だからといって危険ではない、専門家では言い難いそういうことをうまく伝えていければ――目の奥に揺れる使命感は怯むことを知らない。
ぬまぐち あさこ 1980年、東京都生まれ。東海大学海洋学部卒業。シャークジャーナリストとして、サメの生態について専門家と一般の人をつなぐ活動を行う。新聞・雑誌への執筆、講演活動、談話会主催、専門学校講師など様々な機会でサメの魅力を伝えている。
(月刊MORGENarchives2016)