『日本語を味わう 名詩入門 全加巻』萩原昌好さん
『日本語を味わう 名詩入門 全加巻』(あすなろ書房刊)が完結した。すぐれた詩人の名詩を味わい、理解を深めることができる本シリーズは、小・中・高校生は無論、大人にも再読をお薦めしたい。戦前戦後を通して宮沢賢治や中原中也、立原道造などに代表される日本近代の詩や、現代詩で代表される石垣りん、谷川俊太郎、まど・みちおまで収められ、詩人別の作品集になっている。各巻には人気イラストレーターの素敵な挿絵や丁寧な解説も嬉しい。編者の萩原昌好さんに話を聞いた。
幼少期、詩との関わりにはどんな思い出が
僕は、戦後最初に小学校に上がった世代なんですよ。当時の日本は、引揚者はどんどん帰ってくる、教師は足りない、と、とにかく混沌としていました。疎開から帰ったばかりの僕もやはり、混乱の中の学校生活でしたね。落ち着かない世相の中で、詩への興味を持ち始めたのは、小学校4年生のころ。受け持ちだった、いわゆる「文学少女」の女性の国語教諭に影響を受けたのが始まりです。教科書に載る、山村暮鳥や八木重吉の詩、それにヘンリー・ワーズワース・ロングフェローなどの翻訳詩は、どれも感動的で、心に深く突き刺さったのを憶えています。すぐに詩の世界にはまりこみ、自ら詩作を重ねましたが、ある時、先生が、僕に内緒で作品を勝手に、県の詩のコンクールに応募、入選する、という出来事があったんです。それからは一層のめりこんでいきましたね。
『日本語を味わう名詞入門』の着想は
5年ほど前のこと、あすなろ書房さんから、80年代に、私が編者となり、ご好評いただいた『少年少女のための日本名詞選集』を親本とし、新たなシリーズをというお話をいただいたんです。以前の選集には、諸事情から、近代詩、現代詩がほとんど漏れていました。翻ってこの30年ほど、現代詩人全集をはじめ、現代国語教育・研究に携わっていたこともあり、それでは、近現代詩を加えた選定に、という風に方向性が定まっていきました。
コンセプトに「教材研究」も含まれているとか
戦後のまど・みちおや、石垣りんに関しては特にそうですね。学校の教育現場では、先生方が詩作品をどう教えて良いかわかりずらい、という声を頻繁に耳にしますが、これは、小・中学校の教育に対応する作品論が世に出ていない、ということが大きな要因です。かつて「まんがで学習『奥の細道』を歩く」という作品で、漫画から古典にアプローチを試みたこともありましたが、行数の少ない漫画では、どうしても表現が限られ、結果として、作品ではなく漫画がメインになってしまうんですね。そういった経験、観点から生み出されたのが、『少年少女のための日本名詞選集』であり、その本流は、今シリーズでもしっかりと継承されています。