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『日本語を味わう 名詩入門 全加巻』萩原昌好さん

昨今は電子書籍も多く出版されています

 こと詩集に関して述べるなら、″余白の大事さ〝という観点から紙の出版物が一番ですね。詩においての空白は大変に重要で、空白を読まなければ、意味が通じない作品は、とても多いんです。また、読んだ時々に、感じたことを思いつくままに、筆を走らせ書き込む、というのも余白の重要な使い途ですね。

作品を通し訴えたいことはなんでしょう

 教育者、研究者として常々、現代の小中高校生は、どこか感性が欠けていると考えてきました。教育の現場に目を凝らした結果、小学校の科目過多なカリキュラムに原因があるのではないか、と思い当たったんですね。文学の解説すら端折る現況では、短歌・俳句・詩に時間を割く余裕はありませんし、先ほど述べたように、良質な解説本も多くありません。結果として軽く扱われてしまうんですね。僕は、長く続くこの現況に警鐘を鳴らし続けてきました。というのも、特に小中学生の児童は実は詩が嫌いじゃない、寧ろ好きなんですよ。せっかく子供たちが持っている感性の受け皿が、教育現場の事情で潰されてしまうのは、本来あってはならないことです。

 そういった側面から、前選集では小中学生に限定していた読者対象を近作では、大人の教育者や高齢の方まで網羅したものに変えています。ところで、宮沢賢治は「アドレッセンス 中葉」(大人の常識や規範に毒される以前の思春期の心)という言葉を使い、詩や童話を書いています。純粋なその時期に読むべきは、小説ではなく、詩、或いは童話である、そういう信念を胸に、ある時期以降、小説は一切書かなかったそうですが、そうして自分の心が悦び、動かされたものだけを心象スケッチする作風に辿りつきました。まず自分が感動しなければ、他人を感動させるなど到底できない、そう考えたんだと思います。僕にとっても、この賢治の考え方は、絶対的な指標としてあり、どの作品を解説するにも、感動するまで読み込みます。簡単なことではありませんが、そうして心を動かされて書いたものは、読者を選ばないんですよ。願わくば、本作を読み、詩を理解することを通して、子供たちに、あるいは大人の方にも、感受性を育ててほしい、そんな風に考えています。

はぎわら まさよし 1939年神奈川生まれ。東京教育大学、同大学院を卒業後、埼玉大学教授、十文字女子大学教授を経て現在に至る。著書に『宮沢賢治「銀河鉄道」への旅」』(河出書房新社)、『宮沢賢治「修羅」への旅』(朝文社)など。宮沢賢治学会イーハトーブセンター会員。

(月刊MORGENarchives2014)

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