塚田 万理奈さん(映画監督)

 塚田万理奈さんは映画監督である。その作風は、一見、私小説(自分自身を題材にした作品)風だが、少し目を凝らせば映画の中で〝私″は力強く拡張され、リアリズムの普遍的な煌めきを放っている。新作『空(カラ)の味』は、実体験をもとに、拒食症の苦しみと、それを取り巻くコミュニティを通して、現代社会や人間そのものに鋭い切り込みを入れる。鬼気迫る感性の刃……、夢を生きる源泉を訊いた。

 長野県長野市、善光寺を傍らに、都会と自然が絶妙に折混ざる地方都市が塚田さんの原風景だ。幼い頃から本や漫画が大好きだった少女は、暇さえあれば絵を描き、ストーリーを付け加えて、絵本をこしらえた。4人兄弟の末子――。文武両道の兄、活発な姉、そして自立心旺盛で多才な長女に、埋もれるように過ごした幼い日々。上の兄弟たちに手の塞がる両親の足元で、一人黙々と、漫画を頭に押し込めては、妄想を膨らませる。「家族内での存在感が0でした」……そう振り返る無色の記憶だ。

 中学校に入ると、学校が好きになった。兄や姉で満たされる家庭の空気を嫌ったというのが正確だが、とにかく一日のできるだけ多くを学校で過ごすようになる。入部した陸上部で走る長距離の一人旅は、思春期に荒れ狂う心の海原を静めてくれた。同様の作用は映画にもあり、この頃から、一人、映画館に足を運ぶようになる。劇場の座席に潜るように身体をうずめると、少し間を置いてぼんやりと白いスクリーンに、夢の世界が映りだす。やがて少女は夢と妄想の狭間に落ちた。

 「高校はすごく嫌いでした。」話がそこに及ぶと、すぐにそう口にした。学校が好きだった中学時代から一転、高校ではまったくと言っていいほど友達ができなかった。入学先の進学校は、当たり前のように偏差値至上主義。教師はおろか、クラスメイトたちも、ひとつでも上の進学を目指して血道を上げる。それにどうしても馴染めない。難易度に拘らず、好きなところに行けばいいのに……、距離を感じるうちに一人になった。

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