• 十代の地図帳
  • 各界の著名人の十代の道程にその道に入る心構えやヒントを見る

ウスビ・サコさん(教育者)

テーマの一つに掲げる「自由」について聞かせてください

「自由」と聞くとさも簡単そうに思われるかもしれませんが、自由って本当に大変なんです。そもそも自由って他人から与えられるものじゃないし、自分の手で獲得しなきゃならない。例えば、何かを選択しようと思えば知識が沢山必要だし、そこから更に可能性を広げようと思ったら、いろんな人とコミュニケーションを取って人脈を作った方がいい。そういう物質的じゃない豊かさ、人間としてどう生きていくかというのをちゃんと考えるきっかけとして、「自由」というのを取り上げています。

若者にメッセージを

 今、私は学長を退いて一年生に建築を教えているんです。「自由」もその授業の一環として話しています。今はネットで学術的な勉強はできるので、対話を中心にするんですが、その中でよく失敗談を話すんです。これって意外と珍しいと思うんですよ。大人ってあまり失敗を語りたがらないじゃないですか。自分の成功体験ばかりを話す。でも人生ってそんなもんじゃないですよ。数限りない失敗を重ねたから今がある。それなのにほとんどの大人は若い人たちに失敗の仕方を教えないんです。そうすると失敗するとすぐ諦めてフェードアウトしてしまう。成功体験ばかり聞かされているから、一度でも失敗したら終わりだと思ってしまうわけですね。だから私は、若い人たちにはできるだけチャレンジしなさいと言っている。で、失敗したら何度でもやりなおせばいいんですよ。若いんだからまだ間に合います。我々はもう間に合わないけどね(笑)。

 もう一つ伝えたいのは、夢を持って欲しいということです。私自身、50年前のマリで見た風景に、今目の前にある日本の世界はまったくなかったわけですよ。だからどんなことだって可能性があるっていうことを知っていて欲しいですね。今の子どもたちはどうしても現実的過ぎて夢を見られない子が多いと思います。でも頭の中で冒険してもいいんですよ。それを手伝うのが我々の仕事だと思っています。

ウスビ・サコ 元・京都精華大学学長。1966年、マリ共和国、首都バマコ生まれ。京都大学大学院建築学専攻博士課程修了。建築学、空間人類学を専門とし、「京都の町家再生」などをテーマに研究を進めている。著書に『アフリカ出身 サコ学長、日本を語る』(朝日新聞出版)、『「これからの世界」を生きる君に伝えたいこと』(大和書房)などがある。

(モルゲンWEB2022)

関連記事一覧