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上田 岳弘さん(作家)

芥川賞受賞作『ニムロッド』は2週間で仕上げたとか

 1週間です。それを当時連載中だった『キュー』と同時進行でやっていた。

新刊『キュー』について聞かせてください

 9カ月に渡り、新作をスマートフォンに無料公開してゆくという画期的な連載企画でした。紙にするにあたって更に数百枚加筆したので、総ページ数は700枚を超えています。それをブラッシュアップし、400枚程度にまとめました。この企画には新潮社、ヤフー、Takramの3社が関り、本を紙やキンドルで読むのに至る新たな道筋の可能性を模索する、として始まりました。連載中も頻繁に会議が開かれ、20余名が集まって真剣に意見を交わしました。始動から、足掛け4年の月日をかけたプログラム。この本の最後にあるのは、そのスタッフのリストです。幅広い読者を引き込めればという試みでしたが、インタラクティブなシステムデザインなど見所も多かったと思います。

新しい時代の幕開けですね

 時間は連続していますから、元号が変わろうが関係ないという考え方もありますが、僕は、平成が30年で終わったことに注目しています。30年というのは区切りが良くて、よく会社などにも「30年寿命説」がありますね。30年同じことをやったら、変えないと生き残っていけないよ、というのが論拠ですが、そういった文脈で言うと、反省をするポイントとしては素晴らしいタイミングだ、ということです。昭和の後期から平成は、戦争の世紀の反省だった。昭和後期に蓄えた余剰を使い、ただの競争を越える何かを模索した時代が平成でした。じゃあ、令和はと言えば、その様々の実験の一つひとつを精査し、検証をしていく時代なんじゃないか。そこに何かの結論をつける時代になろうとしているように、僕には見えてしょうがないんです。そんな中で、「決定していく」というのがキーワードになっていくんじゃないか、と。

若者にアドバイスを

 何をするにせよ、実感が伴わない行動って面白くないというか、長続きしないと思うんですよ。で、勘違いでもいいから不可逆的な傷を負わない限りは――片腕を失ったり、人間関係で決定的な信頼を失ったりしない限りは、実感が伴うことに努力を捧げればいいと思う。自分が本当に必要だと思えば、浪人するなど、時間をかけて何かを掴むのは当たり前の時代になってきている。自分の本音に耳を澄ませて生きて欲しいですね。

うえだ たかひろ 1979年、兵庫県生まれ。早稲田大学法学部卒業。2013年、「太陽」で新潮新人賞を受賞。15年、「私の恋人」で三島由紀夫賞受賞。16年、「GRANTA」誌のBest of Young Japanese Novelistsに選出。18年、『塔と重力』で芸術選奨新人賞を受賞。19年、「ニムロッド」で第160回芥川賞受賞。著書に『太陽・惑星』『私の恋人』『異郷の友人』『塔と重力』『ニムロッド』。今年5月、最新作『キュー』を発表。

(撮影:編集部)

(月刊MORGENarchives2019)

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