中村 太地さん（将棋棋士）

　昨年１０月、二人の棋士の間で静止した将棋盤に、いっせいに報道陣のフラッシュが光った。不世出の棋士・羽生前王座をやぶり、新たな王に座ったのは、中村太地さん。憧れの背中を追い続けて５年、３度目の対戦でのはじめての勝利だった。幼い日、父に手ほどかれ、羽生七冠に刺激を受け、そして開花した慧眼の見据える先は――。十代を訊いた。

東京のご出身ですね

　そうですね、府中で生まれて――。でもそのあとすぐに、北海道の札幌や宮城の仙台だとかの雪深い地域を転勤族だった親について転々としました。ふたたび東京に戻って来たのは小学校低学年のときですね。

そのころの思い出は

　小さいころのことなのであまり覚えていませんが、やっぱり親に手をひかれ見に行った札幌雪祭りだとか、仙台の七夕祭りは心に残っていますね。

将棋との出会いは

　４歳のときです。そのころ家族は札幌にいたんですが、冬は必ずといっていいほど雪に閉ざされる。外遊びができないわけです。遊びたい盛りの僕に父が教えてくれたのが将棋だった。ほかにも父は、オセロなどさまざまのボードゲームを教えてくれましたが、そのなかで一番興味を持ったのが将棋でした。

将棋のどこに魅力を

　自分で一から考え、戦略をたてて対戦する。それで勝てるとすごく嬉しい――そんな単純なことだと思うんですが……。どこにそんなに惹かれたのかと訊かれると、いまだに答えに詰まりますね。ほんとに不思議ですよね。最初のころは父が手心を加え勝たせてくれたので、それが楽しかったのかもしれない。もっとも、もともとジャンケンひとつとっても負けたくないくらいの負けず嫌いだったので、それとマッチしたのかな、とも思います。