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小市 慢太郎さん(俳優)

演劇で苦しかった事は

 もう、何回もやめようと思いましたね。演劇は、ほとんど毎日本番があるんです。若いころの僕はとにかくストイックで、今日より明日、明日よりも明後日……、演じる以上は、良くなっていかなければダメ、というプレッシャーが常にあった。やっとのおもいで千秋楽を終えると、満足感や充実感より、開放感が大きいほどでした。それに一生懸命やっても一銭にもならない、どうやって飯を食えばいいのか、全く見当がつかない。少なくとも2回は本気でやめかけましたが、その度に、まあ少し待て、と引く手があって。

仕事はいつごろ軌道に

 どうしたらやっていけるか……、そう先輩に相談すると、じゃあ俺、明日、声(声優)の仕事だから、お前ついてこい、といってくれた。次の日、さっそくついていくと、その場で軽いオーディションをしてくれる。そうして仕事を一本もらった。とにかく当時は、人から言われたことをすぐに実行していました。これ読んでみたら、と本を渡されれば、すぐに読み、この人に会いにいってみれば、と聞いたら、すぐに会いに行った。自分の考える世界、視野の範囲外のこと、すべてに乗りました。そうやってしのぐうち、次第に本業の舞台も軌道に乗っていきましたね。

『惑う after the rain』について聞かせてください

『惑う after the rain』は、人と人が手を取り合って、その動きをもっと大きくしてその渦にどんどん人を巻き込んで行ってものを作りたい、をコンセプトに、「ものがたり法人FireWorks」が企画して、静岡県三島市の「みしまびとプロジェクト」とコラボレーションで作った物語です。この先、100年残るものを……、そんな想いを込めた脚本は、三島の近現代史を2年の月日に多くの人員をかけ丁寧に取材、精密に煮詰めたものになっています。お話をもらって、まずそのコンセプトに深く共感しました。脚本を読むと、凄くよく出来ている、それで、これはぜひやりましょう、と。撮影は三島市の全面協力のもと、三島駅にほど近い名勝『楽寿園』を使って行われました。赴きある家屋に、美しい庭園が広がる素晴らしいロケーションを舞台装置に、物語は、昭和後期から現代へ家族をテーマに広がっていきます。広い世代の琴線に触れるつくりです。ぜひ見ていただければと思います。

十代にアドバイスを

 今は、「自分」というものを煮詰めるのが難しい時代なんじゃないか、と思っています。ネットワークが普及したことで、人と調和していこうとする風情が強くあるんじゃないか、と。僕は、自分がイヤだと思う事はなるべくやらない方がいいと思います。その結果、何が起ころうと、自分と、その道を信じ抜く。僕自身、後ろを振り返ると、それがいい人生に繫がってきた。「運命」というのを信じていい、人生には必ず自分の道がある……、少なくとも僕はそう信じているし、いま若い世代にも、そうして歩んだ道のりを、次の世代に「人生っていいよ。人生って素晴らしいよ」と伝えて欲しいですね。

こいち まんたろう 1969年、大阪府生まれ。同志社大学卒業。学生時代よりマキノノゾミ主宰の劇団M.O.P.に所属し、2010年の解散までほぼすべての公演に参加する。2011年、NHK朝の連続テレビ小説『てっぱん』に出演し高い評価を得る。その他のテレビ作品に『下町ロケット』(11年/WOWOW)、『クロコーチ』(13年/TVS)、『精霊の守り人』(17年/NHK)など多数。映画では『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最後編』(14年)、『劇場霊』(15年)などのほか、新作『惑う』『東京ウィンドオーケストラ』『ゾウを撫でる』の公開も控える。

(月刊MORGENarchives2017)

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