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真藤 順丈さん(小説家)

方言までしっかりと再現を

 言葉については、沖縄の資料や小説を読んだり、辞書の用例を覚えたりして、自分の中に少しづつ溜めていった。そうするうち、最初のうちは辞書を引き合わせて書いていたのが、だんだん、見ないでも書けるようになっていったんです。自然としみついていった。で、正確な『うちなーぐち(沖縄語)』を使ってしまうと、県外の人間には全く読めなくなってしまうんです。そこはちょっとバランスを取って、アレンジを加えつつ、「『宝島』の中での沖縄の言葉」というのを体系立てていきました。

『宝島』のメッセージは

「沖縄を伝えたい」というと少しおこがましいですが、知ってほしいことがあったのはそうですね。それを、歴史からの目線で、「説き伏せる」「諭す」というのではなく、小説のかたちで物語ることで、追体験してもらおう、というのがこの本を書いた意図です。

この本を通して沖縄を身近に感じてもらおう、と

 沖縄の話は、日本の多くの人にとって、どうしても、遠い所の話になってしまうし、どこか対岸の火事になってしまう。そうじゃなくて、日本を構成する一人ひとりが、それぞれ、沖縄のことも自分のことのように引き寄せて考えられるようになれれば、それが一番だと思うので。

今後書いていきたい作品は

 戦中・戦後の歴史小説も書きつつ、色々なジャンルを書いていきたいですね。現代ミステリー、ホラー……、それぞれのジャンルで「これが自分の代表作」と言えるものを出していきたいなと思いますね。もう一つは沖縄のこと。沖縄返還以降のことなど、今回書き切れなかったことがあるので。まだまだ沢山の語られない歴史がありますし、やっぱり、近現代史は自分の中の大きな軸ですね。

若者にアドバイスを

 20代は潰すぐらいのつもりで、好きなことを追求してもらいたいですね。すぐに結果をだそうとしなくてもいい。例えば、20代を映画を見たり本を読んだりするだけで過ごしたとしても、それが本当に好きでそうしたのなら絶対に財産になる。自分の好きなものを追求して蓄積していけば、それは必ず宝物になるし、自分を助けてくれる。そういうものを持っている――足腰がある人っていうのはやっぱり強いですよ。どんなに現実がうまくいかず、無力感に苛まれるときでも、そういうものを持っているなら、そんなに悲観する必要はない。潜在的な力を持っているわけだから。もし今、目の前に壁が見えても、その壁は動かない壁ではないよ、というのは言いたいですね。僕もある時期、「ちょっともう、生きるのが辛いな」「明日大丈夫かなオレ」となりましたが、そんなとき力をくれたのはエンターテインメントだった。「アレの続きが見たいからもうちょっと生きてみよう」とか、娯楽に生かされてきた部分がある。だから、そういうのを蓄積していけば、必ず自分っていうものが出来ていくんじゃないかと思います。

しんどう じゅんじょう 1977年、東京都生まれ。2008年『地図男』で、第3回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞しデビュー。同年『庵堂三兄弟の聖職』で第15回日本ホラー小説大賞、『東京ヴァンパイア・ファイナンス』で第15回電撃小説大賞銀賞、『RANK』で第3回ポプラ社小説大賞特別賞をそれぞれ受賞。2017年に刊行した『宝島』で第9回山田風太郎賞、第160回直木三十五賞を受賞。著書にはほかに『バイブルDX』『畦と銃』『墓頭』などがある。

(撮影:編集部)

(月刊MORGENarchives2019)

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