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笠井 信輔さん(フリーアナウンサー)

若者にアドバイスを

 こんなに大変な時代に生きていて、もうハッキリ言って同情しかない。高校生のうちの息子を見ててもそうですよ。対面の授業が無くなりオンラインになって、あんまり外にも出ないという状況の中で、当然、学友と楽しい時間を過ごすこともないので、それはやっぱり気持ちがやさぐれてくるのは仕方がないと思うんです。ただ、僕はあの東日本大震災のときに〝引き算の縁と足し算の縁〟という考え方を学びました。死者、行方不明者2万人という甚大な被害が出た場所へ、その2日後には取材に行ったんです。そのとき震災直後は誰もが失った親族、友人を指折り数えて嘆くことしかできなかったのが、数週間も経つうちに、避難所で新しい友達が出来たとか、病院で看護師さんに知り合った、ボランティアの人と仲良くなったという風に明るい表情を浮かべるようになった。あげくに、津波があったから笠井さんに会えたなんて言う人まで出て来て。そういった自分が陥ってしまった困難のときに、どうやってスイッチをマイナスからプラスに切り替えるか、それがとても大事なんです。あの震災のときも、こういうときだからこそ、じゃあ自分はどこでなにをするのかというのを見つけることが出来た人から復興の中心人物になっていったんです。

 今もまさにそうで、どん底だって良いことはあるんですよ。僕もフリーになって僅か2カ月で癌を宣告されて、もうどうしようもないと思ったけども、ただそこでキャンセルになった仕事のことばかり引き算で考えているよりは、今癌になったからこうなれたっていう自分になろう、と。そこを考えて入院生活も送っていたし、病室の中からも色々と発信を続けた。癌になって嬉しくなんか微塵もないけれど、でも、この状況で出会った人、起きたこと、結ばれた縁、それを次に生かしていこうと決めたんです。今、希望の大学、高校に入れない、会社は募集すらない中で、じゃあ、それ以外の学校や会社に入って、どうして自分の人生こうなのか、なんてくすぶっていたら勿体なくてしょうがない。その第一志望でない組織で出会った人や起きたことで、今後の人生に重要なきっかけとなることが絶対にあるはずなんです。で、悔やんでばかりだとそのチャンスと節目を捉えられなくなってしまうんです。そうではなくて、自分のいる今ここで、なるべくいい縁と出来事を積み上げていこう、と、そういった姿勢が僕は大事なんだと思っていて。コロナ禍で全く面白いことも無いと思いますが、日常のちょっとした明るい出来事を心の貯金にして前を向いて欲しいと思います。

かさい しんすけ 1963年、東京都生まれ。早稲田大学を卒業後、アナウンサーとしてフジテレビに入社。「とくダネ!」など、おもに情報番組で活躍。201910月、フリーアナウンサーに転身。直後、ステージ4の悪性リンパ腫に罹患していることが発覚。12月より入院。ブログで闘病の様子をつづり、ステイホームの呼びかけ(#うちで過ごそう)も行った。206月に完全寛解し、その後、仕事に復帰した。著書に『増補版 僕はしゃべるためにここ(被災地)へ来た』『生きる力 引き算の縁と足し算の縁』など。ブログは16万人超、インスタグラムは29万人超のフォロワーを持つ。

撮影:編集部

(月刊MORGENarchives2021

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