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半崎 美子さん(シンガーソングライター)

そのころの暮らしは

 もう必死でしたね。週に6日働いて、食事はその日余ったパンを食べる生活。それが落ち着いたころ、ようやくデモテープを作りだした。でもそのころの私は衝動的で、計画性なんてまるでなくて。できた楽曲をつめたMDを持って、タウンページ――当時はネットはありませんから――をめくり、目をさらのようにしてレコード会社を探しては、片っ端から持ち込みを繰り返しました。

辛い現実にくじけたりは

 それが意外とないんですよ。誰ひとり知り合いのない東京で、侵入者のようにレコード会社の自動ドアをくぐり抜ける。誰に渡せばいいのかも分からないまま、とにかく通りすがる人をつかまえてデモテープを渡して……、いま振り返ると私って結構ハート強いなって思います(笑い)。でも不思議なんですが、いつもなにか自分のなかに揺るぎないものがあって、いままで一度も自分の歌を疑ったことがないんです。もちろんそれだけ手当たり次第デモテープを持って行けば、心ない言葉や厳しい批評を度々浴びます。私自身を全否定するようなことを言われたのも一度や二度じゃない。それでも、そんななかにも私の音楽を必要とする、認めてくれる人はいて――。私、どうせ同じ言葉ならそっちの方を聞くタイプなんです。

転機はどのように

 偶然入ったレストランで聞こえたピアニストの方の演奏がすごく奇麗で。気付いたら「私の伴奏をしてください」と声をかけていた……。それからですね。ライブハウスにデモテープを持って行き、そこで歌うようになり、だんだんと「お客さん」と呼べる人が増えていって――。そのあとに今度はショッピングモールで歌い始め、2013年ごろからはツアーのように全国を回りだした。このショッピングモールもデモテープと名刺を持参してひとつひとつ開拓していきました。

若者にメッセージを

 先日『明日への序奏』という曲を発表したんです。この歌詩のなかには「助走」や「序章」も出てきます。私の17年も言うなれば助走かもしれない。「助走」と聞くと、さも飛び立つためのもの、高く飛ぶためのものと捉えがちですが、私はどちらかといえば無我夢中で助走をしていたら気がついたら飛んでいた……、という感じでした。そして、その助走をしているなかにはキラキラしたものがいっぱいあった。それは決して飛ぶことが目的ではなかったからです。助走の間にはもちろん、辛いこと苦しいことも沢山あるけれど、助走を続けることの素晴らしさ、好きなだけ助走を続けて良いんだよ――というのをこの曲を聞いて感じてもらえたら嬉しいですね。

はんざき よしこ 1980年、北海道生まれ。大学を中退し上京、音楽活動を始める。2007年、自主制作のファーストアルバムを発売。CDショップでのインストアライブやショッピングモールでのコンサートを続ける中、楽曲がテレビ・ラジオ等で取り上げられる機会が増え、“ショッピングモールの歌姫”と注目を集める。17年、「NHKみんなのうた」で取り上げられた「お弁当ばこのうた~あなたへのお手紙~」や、「サクラ~卒業できなかった君へ~」を含む1stミニアルバム『うた弁』にてメジャーデビューを果たす。同年12月、日本有線大賞・新人賞受賞。

(撮影:編集部)

(月刊MORGENarchives2018)

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